更年期世代の10人に1人に起こる「微小血管狭心症」とは?閉経後の胸やお腹の痛みに注意
更年期を迎えると女性の体には大きな変化が訪れます。「更年期を単なる通過点ではなく新たなステージへの出発点ととらえ、後半の人生に向けて踏み出す準備をはじめましょう」と話すのは、医師・天野惠子さん。自身も更年期症状に悩んだ経験から、日本における「女性外来」の発展に尽力してきました。最新の情報をまとめた自著『女の一生は女性ホルモンに支配されている!』(世界文化社刊)から、閉経すると増え始める心臓の血管が狭くなる病気について解説します。
閉経すると増え始める、狭心症・心筋梗塞
「狭心症、心筋梗塞」という病名を耳にする機会は多いのではないでしょうか。心臓の表面を走る血管が狭くなったり詰まったりして心臓を動かす筋肉(心筋)が正常に働かなくなる病気で、主な症状は胸のあたりの強い痛みや圧迫感。心筋への血液が不足して起きるという意味で「虚血性心疾患」と総称されます。 女性よりも男性に多く、閉経前の女性にはほとんど見られませんが、更年期以降、少しずつ増え始めます。その背景にあるのが、女性ホルモン・エストロゲンの働き。狭心症も心筋梗塞も血管の異常で生じる病気ですが、エストロゲンには血管を守るたくさんの作用があるのです。 しかし閉経前でも喫煙者となると話は大きく変わってきます。たばこに含まれる有害物質がエストロゲンの働きを妨げるため、喫煙習慣があれば20代、30代でも決して関係のない病気だとはいえません。
●女性の症状はお腹、背中、喉、肩など広範囲に表れる
狭心症や心筋梗塞の症状には性差があります。男性が典型的な胸痛が主であるのに対して、女性は胸の症状以外に腹痛や背部痛、あごや喉の痛み、吐き気や嘔吐などじつに多様。そのため診断が遅れることも多くなります。 また男性は主に激しい運動やストレスをきっかけに発症しますが、女性は安静時でも起きるという違いがあります。
検査で異常が出ない、女性に多い特殊な狭心症
もう1つ、ぜひ知っておきたいのが「微小血管狭心症」。更年期世代の10人に1人に生じるといわれる特殊な狭心症です。 微小血管は冠動脈から枝分かれした髪の毛ほどの細い血管で、心臓内部に網の目のように入り込み、心筋に酸素と栄養を補給しています。この微小血管が何らかの原因で痙攣して起こる病気です。 夜寝る前やデスクワーク中などの安静時に突然、胸やおなか、奥歯、あご、腕や背部などの痛みや吐き気が始まり、みぞおちの痛みや圧迫感、呼吸困難感に襲われる。症状は5分から10分以上続き、たびたび繰り返される――。普通の狭心症と違って冠動脈に異常は見られず、検査に表れないため診断の難しい病気です。 天野先生が微小血管狭心症の存在を初めて学会に報告したのは、今から40年も前のことでした。患者の約7割が女性で、更年期女性の10人に1人に起こる、決して珍しくない病気なのですが、今も医療現場で広く知れ渡っているとはいえません。まずはこのような病気があることを知っておき、症状に思い当たるときは女性専用外来の循環器内科の医師にかかるのがよいでしょう。
ESSEonline編集部