「伝統的酒造り」無形文化遺産決定、九州豪雨で被災の蔵元「落ち込んだ売り上げの回復につなげたい」
パラグアイのアスンシオンで開かれている国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の政府間委員会は4日(日本時間5日)、日本酒や焼酎、泡盛などを造る技術「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録することを全会一致で決めた。各地の酒どころは祝賀ムードに包まれるとともに、関係者が伝統的な酒造りへの思いを新たにした。 【写真】もろみをかき混ぜる「櫂(かい)入れ」を行う三和酒類の従業員たち
国産米を使い、熊本県人吉・球磨地方の水でもろみを仕込む「球磨焼酎」を手がける「大和一酒造元」(熊本県人吉市)。下田文仁社長(57)は、「登録を豪雨被害やコロナ禍で落ち込んだ売り上げの回復につなげたい」と話す。
2020年7月の九州豪雨で製造場は約3メートル浸水。年間生産量の7割以上に当たる4万リットル超の原酒が流失した。「絶望的な気持ちで廃業も考えた」が、ほかの蔵元や酒販店などの支援で何とか踏みとどまった。今も売り上げは豪雨前の約8割にとどまるという。
下田社長は「自然に逆らうことなく、自然に合わせて作る焼酎は、世界に誇れる酒。(再開への)背中を押してくれた地元のために、これからも愛される酒造りを続けたい」と話す。
「下町のナポレオン」の愛称で知られる麦焼酎「いいちこ」を製造する大分県宇佐市の三和酒類の西和紀社長(53)は輸出への好影響を期待する。
こうじにこだわり、麦の水分量や粒の大きさなどから、醸造する麦を厳選しているという。約10年前から米国にも拠点を置き、焼酎の消費拡大を図ってきた。
「日本の伝統的な酒造りはひとえにこうじの文化。その大切さを訴えてきた我々の思いが、ようやく認められた。これを機に、より広く、世界の人に知ってもらえるとうれしい」と話した。