90分学べば誰でも「会社の数字」がわかる…中小企業の奥さんが社員を変えた"風船と豚"会計メソッドの効用
■「会計嫌い」は教え方のせい 風船会計メソッドを用いて社員に会計を教えるという試みは、松本興産に大きな効果をもたらした。とはいえ、このメソッドがどんな人に対しても有効かというと疑問は残る。会計に苦手意識を持つ人や勉強嫌いの人は少なくないからだ。 「それは教え方が悪いからだと思います。私は教えるときはいつも『家で勉強しないで!』と言っています。風船会計メソッドは、今この場で90分間だけ学べば理解できるように設計してあるからと。会計の本質や考え方を学ぶ上で、自宅での予習復習や用語の暗記は一切不要だと思っています」 また、学ぶ際には「会計がわかると何がいいのか」を知っておくことも大事だという。そこで松本さんに、経営層、管理職、社員それぞれにとってどんなメリットがあるのか、解説してもらった。 ■売り上げだけでなく利益を伝えないと意味がない まず経営層の視点から見て、社員が会計を知ると何がいいのか。 多くの経営者は社員と売り上げ目標を共有するが、これでは社員は目標を達成できなければ後ろ向きになり、達成すれば「なのになぜ給料が上がらないのか」と不満を持ってしまう。 「だから売り上げではなく利益を伝えないと意味がない」と松本さん。社員が会計知識を持ち、利益の仕組みを理解していれば、「自分の給料を上げるには会社の利益を上げる必要がある、それなら製品の利益率を上げてはどうか、そのために自分は何をすべきか」というような考えも湧く。利益の上げ方を自発的に考えるようになるのだ。 「経営者は孤独になりがちですが、全員で会計視点を共有できれば、それが社員との共通言語になります。経営者がビジョンや実現するにあたって必要な利益などを語ったとき、腹落ちしてくれる可能性も高くなるでしょう」
■「どうすれば部下を動かせるのか」という発想は間違い では、管理職にとってのメリットは何だろう。一般的に、管理職は自分の部署の予算や利益にのみ着目しがちだ。これでは部署間で予算の奪い合いや利益の競い合いが起きてしまい、横のつながりによる相乗効果は見込めない。だが、会社全体の数字を会計視点・経営視点で見ることができれば、全体利益に向かって他部署と協力する姿勢が生まれやすくなる。 また、管理職自身が会計知識を持っていれば、部下にもその重要性を伝えられるだろう。 「どうすれば部下を動かせるのか」と悩む上司は多いが、松本さんは「そもそもその発想が間違い」と指摘する。 「『動かす』と言っている時点で、相手ではなく自分のことを考えていますよね。本来は、部下が自立して『動ける』ようにしてあげるのが上司の役割。部下の立場になってみれば、背景がわからないのにただ指示されても動きようがなく、不満がたまるばかりでしょう。それを防ぐためにも、共に会計知識を持ち、指示の背景となる数字を共有できるようにしてほしいと思います」 ■会計は生きる知恵、自立する知恵になる そして社員にとっての最大のメリットは、仕事が面白くなること。会計がわかれば経営層の意図がわかり、自身の役割や目標も明確になる。さらに、会計は幅広い業界で通用するスキルであることから、転職や起業の武器にもなる。身につければ人生の選択肢は確実に広がるだろう。 「会計知識は、経営者や会社員はもちろん、そうでない人にとっても生きる知恵、自立する知恵になる」と松本さん。そのことをより多くの人に知ってもらえるよう、風船会計メソッドを世界中に広めていきたい──。目を輝かせながらそう語ってくれた。 ---------- 辻村 洋子(つじむら・ようこ) フリーランスライター 岡山大学法学部卒業。証券システム会社のプログラマーを経てライターにジョブチェンジ。複数の制作会社に計20年勤めたのちフリーランスに。各界のビジネスマンやビジネスウーマン、専門家のインタビュー記事を多数担当。趣味は音楽制作、レコード収集。 ----------
フリーランスライター 辻村 洋子