マルクス・ガブリエルと名和高司による特別対談! 資本主義は今、曲がり角に来ているのか?
企業経営の分野で「エシックス(倫理)」が注目されている。日本を代表する企業のアドバイザーを長く務めてきた名和高司氏。3年前に「パーパス経営」を提唱し、日本でのブームの火付け役となってきた。 しかし、今やパーパスの実践に行き詰まる企業も数多い。その解決策として、経営において倫理を判断軸に据えるとする『エシックス経営』を提唱している。 【写真】理想と現実をつなぐ判断軸は「倫理」にある また、「哲学界のロックスター」と称されるドイツ・ボン大学のマルクス・ガブリエル教授は、道徳的価値と経済的価値を再統合した「倫理資本主義」を提唱し、日本に向けて書き下ろした近著『倫理資本主義の時代』が大きな話題となっている。
今回、ガブリエル教授の来日に合わせ、日独の「倫理資本主義」について、大いに語り尽くしてもらった(全4回を予定)。 ■資本主義の3つの条件とは 名和:ガブリエルさんは「倫理資本主義」という概念を説いてこられました。環境問題や不平等社会などが浮き彫りになる中、資本主義の終焉を唱える論調が台頭しています。 それに対して、ガブリエルさんは社会主義や共産主義に進むのではなく、資本主義を再定義すべきだと論じていますが、最初に資本主義の本質をどう捉えているのかを教えてください。
ガブリエル:資本主義は3つの条件を緩やかに束ねたものとして定義できます。 第1の条件は「自由契約」です。封建制度と違って、自分の労働力や能力が金銭的対価の対象となり、それを収益化するときも束縛を受けずに契約を結ぶことができます。自由契約は、支配と不正からの解放における近代的形態として資本主義をもたらしました。 第2の条件は「生産手段の私有」です。誰かが何かを所有し、リスクをとるなど何らかの条件下で再投資し、より多くの私有財産を蓄積することができます。私有財産は体系的かつ合理的に経済を進める単なる条件ですが、システムに安定性をもたらします。今日まで、不動産が資本主義の特徴として重視されてきたのはそのためです。