大川原化工機事件の教訓 「特殊ケース」ではない冤罪 “暴走”捜査にブレーキ不可欠
二つ目のパターンの最近の事件としては、1995年に起きた「東住吉事件」や、2008年の「クレディ・スイス証券申告漏れ事件」が有名だ。前者は、車から漏れたガソリンが風呂の種火に引火し、火事で女児が死亡した事実について、保険金目的で殺すためにガソリンをまいて放火したとして母親が起訴された(後に再審無罪)。後者は、自社株で受け取った海外給与を申告していなかったとして証券会社部長が所得税法違反で起訴された(後に無罪判決)。 これらの事件と大川原化工機事件の大きな違いは、「不正輸出」という経済安全保障事件ということだろう。そのため、警視庁で捜査を担当したのは、殺人や強盗などを扱う刑事部ではなく、テロやスパイ活動を未然に防止し、取り締まる「公安部」という組織だった。 事件の核心は、経済産業省による、輸出貿易管理令の規制対象を定めた省令にいう「定置した(分解しない)状態で内部の滅菌又は殺菌をすることができるもの」という要件に該当するかどうかだった。分解せずとも内部を殺菌または滅菌できれば、生物兵器へ軍事転用できてしまうため、輸出規制をしているのだ。大川原化工機側は、自社の当該機器はそのような機能を有していないと主張し、それを裏付ける証拠も複数あった。だが、それら証拠は無視された。加えて公安部は、この省令の解釈権限のある経産省に「確認した」として捜査を強行、東京地検もこの解釈に従って起訴に至った。 ■特高の流れくむ公安部 昨年12月、違法な逮捕・起訴があったとして大川原化工機の元被告らが国や東京都を相手に起こした国家賠償訴訟の判決では、東京地裁はそうした解釈について、捜査当局が温度測定などの捜査を遂行していれば、該当性がない判断に至ったとして捜査と起訴に違法があったと認めた(裁判は高裁で係属中)。事後的にではあれ、当該機器の輸出には犯罪性がないとの判断が裁判所から示された。この点は前述の2事件と共通する。