大川原化工機事件の教訓 「特殊ケース」ではない冤罪 “暴走”捜査にブレーキ不可欠
軍機保護法とは明治時代に軍事秘密を保護する目的で作られた法律で、戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の指示により廃止された。同法は「職務によって軍事上秘密の事項又は図書物件を知得領有した者がその秘密であることを知ってこれを他人に漏洩(ろうえい)交付し、若(も)しくはこれを公示したときは、有期徒刑に処する」と定めていたのだ。 大審院は何がこの「軍事上秘密」に当たるかは陸海軍大臣が決定するもので、たとえ公衆が知り得る情報でも軍が秘密と言えば該当すると説明した。だが、広く知られている飛行場の存在が軍事上秘密に当たるなど宮澤氏やレーン夫妻が知るよしもない。逮捕の10年も前に有名なリンドバーグが来日飛行した際にも、飛行場の名前は広く報じられていたくらいだ。 この恐るべき解釈によって宮澤氏とレーン氏は懲役15年の、レーン夫人は懲役12年の刑を受けた。レーン夫妻は判決後アメリカに強制送還されたが、宮澤氏は網走刑務所に送られ戦後GHQの指示で釈放されたものの、間もなく病没した。夫妻は戦後日本に戻り再び北海道大学で教鞭(きょうべん)を執ったが、いまだにこの国は宮澤氏や夫妻の汚名をそそいでいないばかりか、その過ちを認めたことすらない。 ■録音・録画の対象拡大を では、こうした類型の冤罪を防ぐにはどうすればいいだろうか。まず、どんな類型の事件についても共通する課題として、捜査段階の抜本的改革が挙げられる。取り調べに弁護人を立ち会わせて、無理な法解釈や当てはめがないよう助言できるようにする必要がある。現状、大川原化工機事件のような経済安保事案は取り調べの録音・録画の対象となっていないので、対象を全罪種に広げたい。 かつて宮澤氏は取り調べで特高から激しい身体的拷問を受けたという。戦後は憲法で拷問は禁じられるようになったが、現代に至っても取り調べにおいて心理的圧迫や自白の強要を受けたという訴えは後を絶たない。任意の捜査段階から事情聴取や被疑者取り調べに至るまで、一貫した録音・録画も不可欠だろう。可視化先進国である英国では、任意取り調べでも録音・録画されるようになっている。