インドの個人が株式市場に積極参入、割高調整局面こそ中長期的な投資機会に=UTIの株式運用責任者に聞く
2024年前半は快調に上昇していたインド株式市場は、夏場以降に上昇の勢いが止まった。その後、高値もみ合い相場となり新高値の更新ができなくなって年末を迎えた。経済の好調を背景に新興国株式市場の中でも際立って好調なパフォーマンスを残してきたインド株式市場は、今後、どうなってしまうのだろう。インド株式ファンドの中で中長期に優れたパフォーマンスを残してきた「SBI・UTIインドファンド」を実質的に運用するUTIインターナショナルのヘッド・オブ・エクイティ兼ポートフォリオマネージャーのAjay Tyagi(アジェイ・ティアギ)氏(写真)に、インド経済の現状やインド株式市場の見通しなどについて聞いた。 ――2024年の前半は非常に好調だったインド株式市場ですが、夏以降に株価は横ばいに転じました。2024年にインド株式市場で何がおこっていたのでしょう? また、インド株式市場に割高感があるという見方がありましたが、株価の調整によって割高感は緩和しましたか? 2024年の前半は、インドの個人投資家の資金が活発に株式市場に入ってきました。過去数年の株式市場の堅調を背景にインド国内で株式投資への関心が高まり、2024年にはそれが大きなうねりとなって株式市場に参入してきました。その結果、私たちのようなプロの運用者からみると、投資することがためらわれるほどに割高な水準にまで株価が上がってしまいました。夏以降に株価上昇の勢いがなくなったのは、プロの投資家が見送り姿勢に転じたためといえます。 株式市場が調整したとはいえ、インド株式市場の割高感は依然として残っていると思います。たとえば、過去18年間の平均PERは16.5倍ですが、2024年半ばには24倍程度に上昇し、現在は21倍程度です。依然として割高感はあるため企業利益の上積みを待つ必要があります。 ――インドの主要企業の1つであるアダニグループに不正会計疑惑などガバナンスに関する問題が指摘されています。これは、インド株式市場全体が持っている脆弱性でしょうか、それとも、アダニグループ固有の問題なのでしょうか? ガバナンスの問題は、インドに限った話ではありません。米国でも日本でも経営者の不適切な行為が伝えられて株価が急落するようなことはあります。インドも株式市場が大きくなってきて、さまざまな考え方を持った経営者が出てきています。私どものようなプロの投資家は、経営者の経営に対する姿勢や考え方をしっかり見極めて銘柄を選ぶ必要があります。 UTIは歴史的に企業調査においてガバナンスに関する調査に力を入れています。過去成功した企業は、優れたビジネスモデルや強固なバランスシートなどとともに、ガバナンスの面でもしっかりした企業です。UTIは、この点を重視して企業調査や銘柄選定に活かしています。そのため、問題になったアダニグループは運用ポートフォリオに組み入れていませんでしたので、同グループの株価下落の影響はありませんでした。 また、インド企業の経営者の多くは、ガバナンスについて高い意識を持った運用をしています。上場企業として資金調達の面、また、株価の面で脆弱なガバナンスの体制では市場から評価が得られないということは良く理解しています。今後もガバナンスの問題で市場の話題になるような企業はなくならないでしょうが、それはごくまれにしか起こらないということは過去30年の歴史を振り返ってもはっきりといえることです。 ――日本の新幹線技術を使ったインドの高速鉄道計画が延期されるなど、インドのインフラ整備が計画通りに進まない問題があります。インドのインフラ整備には計画を阻害するような大きな問題があるのでしょうか? デリーとムンバイを結ぶ高速鉄道計画は、確かに遅れてはいますが、何が特別な問題があるということではありません。インドは土地の所有権があることから、鉄道を敷くための用地の取得が計画通りには進んでいないということです。これは、日本や米国などでも起こりうることでしょう。特に、デリーとムンバイというインドの主要都市を結ぶ鉄道ですので、都市の周辺は開発も進んでいる地域です。土地の取得に時間がかかるのは無理もないと思います。遅れてはいますが、粛々と進んでいると考えてよいです。 ――2025年のインド経済とインド株式市場をどのように見ていますか? インフレ率は低下し、それに伴って金利も低下するでしょう。インドの政策金利は2024年12月時点の6.50%から0.5%は低下するとみています。インドのGDP成長率は2024年度が7%程度の成長率ですが、2025年度は6%程度の成長が可能だと考えます。 一方、インド株式市場は年初から年半ばまでは割高感を解消するための調整期間が続くのではないかと考えています。そして、年後半は好調な企業業績を評価して株価が上昇するとみています。 ――「SBI・UTIインドファンド」は、過去1年の成績では「MSCIインド(配当込み、円ベース)」が27.78%という成績に対し、ファンドは21.49%とやや劣後しています。過去10年間では「MSCIインド」が年率11.28%に対してファンドは年12.52%と高いリターンを確保しています。2023年後半から2024年半ばまで「MSCIインド」のパフォーマンスが優位になった理由をどのように考えますか? ファンドは、将来にわたって安定したキャッシュフローを生み出す力のある優れたビジネスモデルを持ち、財務内容もしっかりした「クオリティ・グロース銘柄」を選定して投資しています。ところが、2023年から2024年の前半にかけては、インド国内の個人投資家の間で株式投資の熱が盛り上がり、多くの投資家が参入するとともに株価も急速に値上がりしました。どんな株式でも株価が上昇するような環境でしたから、何か問題があって株価が低迷していた株式が大きく値上がりするようなこともあったのです。 その後、全体の割高感が強く意識されて株価が調整局面を迎えると「クオリティ・グロース銘柄」は値を保つ性格が強いため、徐々に市場全体をアウトパフォームするようになってきています。当ファンドの運用は10年、15年という長期の運用期間ではインド株インデックスファンドの成績を上回り、インド株に投資する国内ファンドの中でもトップクラスの運用実績を残しています。「クオリティ・グロース銘柄」を選定し、割安な水準で投資して5年、10年という中長期で保有するという当ファンドの運用方針が良好なパフォーマンスにつながっています。 ――3年~5年という中長期のインド株式市場の見通しと、「SBI・UTIインドファンド」の運用方針は? インドの成長をけん引すると考えられる世界最大の人口、加えて、若い人口構成などによって中間所得層が増加してインド経済をけん引していくというストーリーには、何の変化もありません。年率で6%程度の世界でも高い水準の成長を引き続き持続できると考えて良いでしょう。当ファンドでは、これまでも変わることなく企業調査を徹底し、クオリティ企業の発掘に努め、中長期に成長が期待できる企業に中長期に投資していきます。 当ファンドに投資をご検討いただく際には、5年以上というような比較的長い期間で投資を継続することを考えていただきたいです。1年、2年という期間では、当ファンドよりもより高い運用成績を上げるファンドがあるかもしれません。しかし、5年、10年、15年と長期の運用成績を見ていただくと、当ファンドを選んで投資したことが間違いではなかったと思っていただけます。そのように長期の目線に立つと、2024年の夏以降に調整局面にある現在のインド株市場は非常に魅力的な投資機会を迎えていると感じられます。ぜひ、中長期に高い経済成長が期待できるインドの株式への投資をご検討ください。
ウエルスアドバイザー