EVP兼CROに聞くシトリックスの今--再び成長軌道を目指す
Citrixといえば、かつてはWindowsの世界でクライアントPCにそれぞれアプリケーションをインストールして実行するのが当たり前だった時代にサーバー側でアプリケーションを実行する仕組みを開発し、企業で使われるIT基盤に不可欠な運用管理性を実現したことで知られる老舗ソフトウェアベンダーだ。 もともとのアイデアは、サーバー側で実行されたアプリケーションの画面表示のデータをネットワーク経由でクライアントに転送して表示し、クライアントPCでのマウスカーソル移動やキーボード入力をサーバー側のアプリケーションに転送して行うといった、いわばリモコン操作のような手法だ。 同社が開発した独自プロトコル「Independent Client Architecture」(ICA)は広く使われ、同社の技術はMicrosoftにライセンス供給されることでWindowsの標準機能としても採用された。その後、クライアントPCのデスクトップ環境を丸ごとサーバー側で実行して仮想化するVirtual Desktop Infrastructure(VDI)が普及したことで、同社はVDIのベンダーとしても存在感を発揮した。 しかし、クラウドシフトが始まり、エンタープライズアプリケーションがSaaSで提供されるようになるとアプリケーションがリモートで実行されるのは当たり前のことになり、同社の技術的な独自性は損なわれたように見えた。 その後、Citrixは2022年1月に投資会社Vista Equity PartnersとEvergreen Coast Capitalに買収され、株式が非公開化されることが発表されたのち、しばらく動向が見えにくくなっていたが、米本社から来日したエグゼクティブバイスプレジデント(EVP) 兼 最高収益責任者(CRO)のHector Lima(ヘクター・リマ)氏に話を聞くことができた。同氏が語る、Citrixの現在と今後の取り組みについて紹介する。 Citrixの現在の姿 投資会社による買収後のCitrixは、同じように買収されたNetScaler(2005年にCitrixが買収)、TIBCO(2015年にVista Equity Partnersが買収)など計7ブランドを統合したCloud Software Group傘下のビジネスユニットという位置付けになっている。Citrixは現在も米フロリダ州に本拠を構えており、Lima氏も同州に在住とのことだ。同氏はCitrixに24年間在籍しており、買収以前の状況もよく知る人物である。 同氏は「2022年中ごろにCitrixは買収されることになった」と振り返った。先行して買収済みだったTIBCOとの統合が模索されたが、両社は共に成熟した企業であり、顧客層やサービス内容は異なっていたことから、Cloud Software Groupを親会社のような立ち位置とし、その下に独立したビジネスユニットとして各ブランドを位置付けるという方針に転換した。CitrixはCloud Software Group傘下のビジネスユニットの中でも最大の存在だという。 Lima氏は、近年市場における同社の存在感が希薄化していたことについて説明した。「この2年ほどはCitrixからのメッセージを聞く機会がなくなっていたと思うが、その間われわれは既存顧客のサポートに注力しており、エンタープライズユーザーがCitrixプラットフォームから最大限のメリットを引き出せるよう技術支援を提供するため、マーケティングや営業だけでなく、エンジニアリングチームに投資することでユーザー体験(UX)の向上に努めてきた」(同氏) 結果として、現在のCitrix日本法人では70%ほどがエンジニアという構成になっているそうだ。同氏はやや冗談めかして「残念ながらわれわれはもうF1レースのスポンサーでもなければ、メジャーリーグベースボールのスポンサーでもなくなった」と言いつつ、こうしたマーケティング予算を削減し、その予算を顧客に向き合い、技術支援を提供することに集中投下しているとした。 Lima氏は、現在のCitrixの取り組みについて「われわれがやることは30年前から一貫して、ユーザーとアプリケーションを接続することだ。かつてはそのための技術として仮想化技術やWindowsアプリケーションに対するクライアントサーバー型の仮想化技術を駆使していたが、現在はポートフォリオを拡大し、さまざまな接続に対するセキュアアクセスを提供している」とまとめた。