米国、新たな対中規制検討 東南アジア・中東も対象
米政府が、中国を対象にした新たな半導体輸出規制を検討していることが分かった。これまでは先端半導体の中国などの「懸念国」への直接的な輸出を規制していたが、今後はこれらの国と取引のある東南アジアや中東などの国々にも規制対象を広げる。これにより中国が現在利用している米制裁の抜け道をふさぐ狙いがある。 ■ 東南アジアと中東、対中規制の抜け道に 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。東南アジア諸国は最近、中国が米国から直接入手できない高度なAI半導体を購入するための抜け道と見られることが多い。シンガポールなどの国では非公式市場が出現しているという。 密輸業者は通常の貨物や個人の手荷物を介して、米エヌビディア(NVIDIA)製の最先端AI半導体を密かに中国に持ち込んでいる。さらに、中国企業は米国の規制を回避するために、東南アジアで子会社を設立し、先端半導体を購入している。 アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアなどの国々は最近、独自のAIエコシステム(経済圏)の構築に数十億米ドルを投じており、中東も米政府の監視対象になってきた。 ■ 米政府、主要ファウンドリーに書簡 これとは別に米政府は最近、台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子などの主要ファウンドリー(受託生産)企業に対し、いくつかの制限事項を通知する書簡を送った。「先進的な半導体製造技術を用いて製造された半導体や、特定の性能基準に達する半導体を中国に輸出するためには、ライセンスを申請する必要がある」と書かれている。 関係者によると、これらの基準により、サイズやトランジスタ数、AIモデルのトレーニングに利用可能な半導体を制限する。以前の規則でも先端GPU(画像処理半導体)やメモリー半導体の中国への出荷を制限していたが、新規則ではメーカーに求める禁止事項をより明確にする。
WSJによれば、米商務省は新規制を制定する前に、しばしば企業にこのような書簡を送る。だが、これらの制限は変更される可能性や、全く実施されない可能性もある。 TSMCは具体的な内容についてコメントを控え、「当社は規則や規制を順守している」と述べた。エヌビディアは、「未発表の規則についてはコメントできないが、政府が必要とする情報はいつでも提供する準備ができている」とコメントした。同社は、「高度なコンピューティングはイノベーションを推進し、世界経済を強化する」とも述べた。 ■ 年々強化される対中規制、中国は報復措置 米商務省は2024年12月2日、先端半導体に関する中国への輸出を制限する新たな対中規制を発表した。 AI(人工知能)向けのHBM(広帯域メモリー)の中国への販売を制限し、中国が利用できる半導体製造装置の範囲を狭めた。加えて、既に中国・華為技術(ファーウェイ)などを対象としている、取引制限リスト(エンティティーリスト、EL)に中国140社を追加した。 米商務省は2022年10月、エヌビディアのGPUなど、AI向け先端半導体を中国などに輸出することを原則禁じた。翌年の2023年10月にはこの規制の強化を発表。中国などに対する米国製先端半導体・製造装置の禁輸対象を広げた。2024年は生成AIに使われる高度なプロセッサーに不可欠なHBMの輸出を事実上禁じた。 この規制強化を受け、中国は先ごろ、先端半導体の製造に使われる鉱物の輸出規制を強化すると発表した。加えて、エヌビディアに対する独占禁止法調査を開始すると明らかにした。これらは報復とみられる。 一方、米政府の輸出制限があるにもかかわらず、中国は高度な半導体技術で進歩を遂げ、米議会をいら立たせているとWSJは報じている。 最近は、TSMCが製造したコア回路がファーウェイのAI用半導体に組み込まれていたことが分かり、米政府や業界に大きな驚きをもたらした。中国への技術移転を阻止しようとする試みの難しさが改めて浮き彫りになったと指摘されている。
小久保 重信