茂木健一郎「暇な時間を積極的に作ることが大事」その理由は? 脳科学の視点で“暇な時間”の重要性を解説
脳科学者の茂木健一郎がパーソナリティをつとめ、日本や世界を舞台に活躍しているゲストの“挑戦”に迫るTOKYO FMのラジオ番組「Dream HEART」(毎週土曜 22:00~22:30)。 TOKYO FMとJFN系列38局の音声配信プラットフォーム「AuDee(オーディー)」では、当番組のスピンオフ番組「茂木健一郎のポジティブ脳教室」を配信中です。この番組では、リスナーの皆様から寄せられたお悩みに茂木が脳科学的視点から回答して「ポジティブな考え方」を伝授していきます。 今回の配信では「暇な時間」に関する質問に答えました。
<リスナーからの相談>
最近、「暇な時間の潰し方」について考えています。高校時代は「暇な時間の潰し方が大事だ」と言われ、当時はその通りだと思っていましたが、パソコンやスマホがこれだけ普及した今「暇な時間」は絶滅したと感じています。 茂木さんは現在の暇な時間について、どのような考えをお持ちですか?
<茂木の回答>
とても大事な問いだと思います。ご指摘のように、暇な時間になんとなくスマホやゲームなどで時間を潰すと、あまり生産的ではないと感じますよね。また、1日ぼーっと過ごすのはもったいないみたいな感覚もあると思います。 ですが、実は脳科学的に言うと空白の時間を持つのはとても大事なことなのです。暇な時間があることによって、初めて働く脳回路があります。それは「デフォルト・モード・ネットワーク」です。 デフォルトは「何かがないときにそこに戻る」というような、「基本の」という意味ですね。脳が暇になってアイドリングしたときに、基本の回路に戻るような活動をするのがデフォルト・モード・ネットワークなのです。 これが最近の研究で注目されていて、「暇だからこそできることが脳にはある」と言われています。具体的には過去の経験を整理したり、あるいはApple社のスティーブ・ジョブズもよく言っていた「ドット(点)とドットを結びつけて新しい発想を生み出す」などです。こういうことは、“暇な時間じゃないとできない”ということが知られています。 ですから、現代人の暇の時間がなくなっていることは、そのぶん自分の経験を整理したり、新しいことに気付いたりする時間がなくなっているということだと思います。 僕はスマホやコンピューターで仕事をしたり、いろいろ調べ物をしたりしているのですが、強制的に暇な時間を作ってランニングをしています。 僕は走っているときに音楽は聴かないので、ランニングをしているときはデジタル情報が入ってこないです。走っているあいだは脳が暇になるので、先ほど申し上げたデフォルト・モード・ネットワークが活性化します。 相談者さんがおっしゃっているように、昔は暇な時間がたくさんあって、どうやって潰すかが話題になっていました。ところが今は、むしろ暇な時間を積極的に作ることが大事だと感じています。 最後に1つ付け加えさせていただきますと、暇な時間は1人で作るものだけではありません。お子さん、ご家族、あるいはご友人と一緒に過ごす暇な時間もデフォルト・モード・ネットワークがお互い活性化して、みんなでいないと思いつかないようなひらめきもあったりします。そういうときは雑談がとても役に立つと思います。 これから夏休みの方も多いと思いますので、暇な時間を積極的に作ることの大切さも考えてみたらいいかなと思います。 (「茂木健一郎のポジティブ脳教室」配信より)