金に目がくらんだ理事長の「強引な営業に教員の不当解雇」、とある通信制高校の現実 現場を知らない経営者が舵取りをした弊害とは
不透明な経営で支払い遅延も引き起こす
そんな中でもバックマージンの引き上げは効果があり、「営業」は好調だった。しかし、提携先が増えた一方で、サポート力は大きく下がっていく。サポート校へ配布する資料や教材を始業日までに準備できない、生徒の在籍管理がずさんになる、などのトラブルが多発したのだ。 「ベテランの先生方が解雇されたのを見て、熱心だった先生や事務職員が何人も辞職してしまったのです。サポート校は、各校の状況を綿密に把握してないと適切に指導できません。新理事長は『効率的にレポートやスクーリングのデータを処理しろ』と言いますが、それでは生徒のためにならないじゃないですか。とことん教育に関心がない人なのだと思います」 そんな新理事長の関心は、やはりお金のようだった。就任以降の会計報告は、巧みに処理されているものの、内部にいるとわかる不審点が多いという。潤沢な利益が出ているはずなのに、提携サポート校へのバックマージンの支払いが遅れる。また新たな提携サポート校の1つが、新理事長の親族が設立した法人であることも判明し、取引の透明性に疑問を抱いたり、資金繰りに不安を感じる教職員も少なくなかった。
トップには「現場の状況を正しく知ってほしい」
「正直、転職はつねに検討しています。でも生徒のことを考えると、簡単には投げ出せないという気持ちもあります。通信制高校にもいろいろありますが、私たちのように不登校や発達障害の生徒も受け入れているところには、サポート校を含め、『社会に出てから上手に人と関わり合って生きていってほしい』という強い思いを持つ先生がたくさんいます。たしかにお金は大切ですが、生徒の人生を左右する重大な責任を負っていることは忘れずにいたいですし、新理事長にもそれだけはわかってほしいのです」 どうしても経営は数字を判断基準にしがちだが、教育の成果は数字だけでは測れない。 「通信制高校は全日制と比べて人数規模が小さく、進学実績や授業数などの縛りも緩いです。だからこそ、生徒と直接関わって成長を見守れることも通信制の存在意義の1つだと思うのです。例えば、全日制では委員長に立候補しないような生徒が、教員の手厚いサポートのもと仕事をやり遂げ、自信をつけていく。そうした経験がたくさんできるはずなのです」 私立学校の運営において、資金確保が重要であることはたしかだ。助成金が相対的に少ない通信制高校の場合はなおさらだろう。その意味で、新理事長が「営業」を強化したのは、予測不能な時代において、むしろ称賛されるべき経営判断かもしれない。しかしそれは、提携先サポート校との密接な連携のもと、生徒たちへ適切な教育で還元するのが大前提であるべきだし、確保した資金は、あくまで現場の教育活動に用いられるべきはずだ。 「とにかく、学校運営に携わる人たちには、現場の状況を正しく知ってほしい。そうすれば、今のようなことはしたくてもできないと思うんです。現場の苦労を知りもしないトップダウンの指示に対応するのは本当につらいです」 最後に、角田さんは絞り出すようにそう言った。私立通信制高校のニーズが高まる今、角田さんの勤務校のように、利益追求の優先に舵を切る学校が出現していてもおかしくない。教育の質を確保するためのチェック体制の強化など、対策が必要なときかもしれない。 (文:高橋秀和、注記のない写真: moguramenbou / PIXTA) 本連載「教員のリアル」では、学校現場の経験を語っていただける方を募集しております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームからご記入ください。
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