金に目がくらんだ理事長の「強引な営業に教員の不当解雇」、とある通信制高校の現実 現場を知らない経営者が舵取りをした弊害とは
「やりやすい体制」のため、ベテラン教員を不当解雇
バックマージンの金額が増えたきっかけは、前理事長の急死だった。民間企業の経営者だった前理事長は、教育への情熱から通信制高校を設立。全日制よりもゆとりある教育が可能な通信制の特徴を生かし、不登校や引きこもり、発達障害の生徒などの受け入れに尽力してきた。フリースクールも兼ねた運営など、その教育方針に賛同して連携しているサポート校も多かったという。 「一方で、新しい理事長は教育のことをほとんど知らない人物です。前理事長の実兄で、連携先のサポート校の運営を任されていたのですが、現場に顔を出さないことで有名でした。弟が教職員から慕われているのも面白くなかったようです。前理事長が健在のときは何もしなかったのに、急死をチャンスとみたのか素早く根回しを行い、理事長への就任を果たしてしまいました」 新理事長がまず行ったのが「営業」の強化だ。生徒数の拡大を目標に掲げ、提携先を増やすと宣言したのである。これは、ビジネス戦略としては理にかなっていた。全日制・定時制の生徒数は、少子化の影響もあって減少傾向にある一方で、私立通信制の生徒数は右肩上がりだからだ。文部科学省の「学校基本調査」によれば、2000年に7万4023人だったのが2023年には20万7537人と20年余りで約2.8倍。直近でも、2022年と比べて2万3891人増えている。 「不登校が増えていることもあり、通信制のニーズが高まっていることは感じていたので、提携先を増やそうという意図は理解できました。現場が戸惑ったのは、このタイミングで教員を異動させようとしたことです。それまで本校舎しかなかったので、異動など誰も想定しておらず、ほとんどが拒否しました」 異動の名目は「規模拡大のため新しく分校をつくるのでそこを任せたい」というものだったが、指名されたのは新理事長に従わなさそうな教員ばかり。「自分に都合のよい体制に変えようとしている」というのが、教員内の共通見解だったと角田さんは振り返る。 「この見解が正しかったことは、新理事長の『分断作戦』で明白になりました。少しずつ味方を増やし、仲間内だけで会議をするのです。新理事長の味方についた先生は、急にほかの先生と話さなくなるので、職員室内の雰囲気も一気に悪化しました」 さらに前理事長派のベテラン教員にはトラップを仕掛け、懲戒解雇処分を下した。これは明らかな不当解雇で、その後裁判を経て撤回されたが、学校現場から一時的に排除された影響は大きかったという。 「解雇された先生方は、サポート校に通う生徒の支援や進路指導も担当していました。いきなり職員室に入れなくなり、困ったのは生徒です。私を含めて残った教員では対応しきれず、サポート校からは『今どうなっているの?』と問い合わせが殺到しました」