今宮戎「十日戎」“福娘”に授与される着物とは?今年の着物と変遷を辿る
今宮戎神社が福娘のために仕立てる着物
「今のような審査形式で福娘の募集を行うようになったのは約70年前ほどから。令和6年(2024年)の福娘は、第72代目となります」と教えてくださったのは、今宮戎神社の宮司代務者を務める津江 英(つえ すぐる)さん。「元々、江戸時代の十日戎では、大阪の旦那衆が商売繁盛を願い、芸妓衆を華やかに飾った駕籠(かご)に乗せて神社に参詣させる『宝恵駕(ほえかご)行列』が行われていました。 戦時中に中断された『宝恵駕行列』でしたが、それに変わって『福娘』が募集されるようになったようです」 <写真>今宮戎神社 宮司代務者 津江 英さん。今宮戎神社本殿の前で。
「津江家は代々今宮戎神社の宮司を務めていまして、福娘は先々代の宮司で、私の祖父・孝夫が始めました。祖父が30代のころに、戦後の復興に合わせて福娘の募集を行い、その着物についても監修を行っていたようです。 残念ながら初期の記録は残っていないのですが、当初から福娘さんには着物でご奉仕いただき、それがいまも続いています。約40名分のお揃いの着物は、毎年京都の会社に依頼をして、型友禅の職人の方が制作してくださっています」 その後、着物の監修については、英さんのお父様である先代宮司・津江明宏(あきひろ)さんが引き継がれました。伝統芸能を披露する「戎舞台」を復活させるなど、十日戎のために尽力された明宏さんでしたが、平成31年(2019年)1月に61歳で急逝。令和2年(2020年)からは、神職として神社に勤めていた英さんが宮司代務者として、着物の監修を担当することになりました。 <写真>あざやかな萌黄色が美しい令和2年の福娘の着物。制作は京都の野橋株式会社。
「父は宮司になる前から福娘担当の神職を務めていたこともあり、着物の制作については約20年ほど一人で担当していました。色やデザインの詳細を知っているのも父のみ。当時一緒に働いていた神職が詳細を聞いてもはぐらかすこともあったとか。他の人に任せることはなかったので、毎年自分だけの楽しみだったのかもしれないですね。急に引き継いだ私は困りましたが(笑)」 生前、着物について周囲に多くを語ることはなかった明宏さんですが、年代によって異なる着物からは、毎年思いを込めて職人の方と検討を重ねていたことが伺えます。 <写真>左から、平成11年度、平成13年度、平成16年度の着物。この頃は赤やピンク系の色合いが多く、意匠も大きく異なる。