社説:日中首脳会談 懸念除く対話の継続を
石破茂首相は相次ぐ国際会議に出席し、首脳外交を本格化させている。「米国第一主義」を掲げるトランプ次期大統領の内向きな姿勢が懸念される中、東アジアの安定と国際協調による課題解決を進める日本の自律的な外交力が問われよう。 石破氏は訪問先の南米ペルーで、中国の習近平国家主席と初めて会談し、共通の利益を追求する「戦略的互恵関係」の推進をあらためて確認した。人的・文化的交流、首脳を含むハイレベルの対話の実現を申し合わせた。 厳しい政権運営を迫られる中、外交成果を得たい石破氏と、対中強硬姿勢のトランプ氏就任を控えて日本を引き寄せたい習氏。石破氏の就任早期の会談実現は、双方の思惑が一致したといえよう。 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を受け、中国が全面禁止した日本産水産物の輸入再開で9月に合意したことについて、会談で習氏は「きちんと実施する」とした。時期を示していないが、トップの初の言及をとらえて進展させたい。 最大の懸案は、安全保障だ。中国は軍機が初めて領空侵犯したことに加え、沖縄・尖閣諸島などで領海侵入を繰り返している。先月も台湾を囲む海空域で軍事演習を活発化させており、石破氏は深い憂慮を伝えた。 両氏は意見の相違について会談を重ね、安定的な関係を目指すとし、基本的な立場の確認にとどまった。 中国では経済不況が長引く中、中国製品への高関税を主張するトランプ氏の再登板に警戒が強まっている。 結びつきの強い日本との貿易や投資を通じた経済活性化を求める動きの一方、懸念も大きい。 中国・深圳市で日本人学校に通う男児が刺殺された事件は発生から2カ月たっても、動機など真相は明らかにされていない。 邦人駐在員が拘束され、スパイ罪で起訴された事件を含め、当局の不透明な対応に進出企業と邦人社会の不安が高まっている。公正な対処と説明責任を促したい。 石破氏は、バイデン米大統領、韓国の尹錫悦大統領と3カ国会談も行った。多国間協力に後ろ向きなトランプ氏就任を見据えて安保面の協力枠組みの固定化へ、事務組織を新設することで合意した。 日米韓の連携を固める一方、5月に4年半ぶりに再開された日中韓首脳会談なども活用し、地域の安定化を図りたい。