「子ども3人の父親役もこなさなければ」シングルマザーの奮闘は病で崩壊した 原発事故で県外避難、12年後「再建格差」の現実
ただ、毎朝午前7時前に自宅を出て午後10時過ぎに帰宅する生活に。オーバーワークがたたり、3カ月後には布団から起き上がれず、家事もできなくなった。いつもいらいらして子どもたちとのけんかも絶えなくなった。精神科で「適応障害」と診断された。 一気に生活が崩れ始めた。病状が悪化し、通院する気力すら失う。処方されていた薬も切れた。家事や家計の管理はもともと苦手だが、福島では両親ら周囲のサポートもあり、大きな問題にはなっていなかった。大阪では頼れる人がいない。自分たちだけ避難したことへの引け目があり、福島の実家には相談できなかった。 高校生の長女は不眠がひどくなり、不登校に。部屋は汚れた洗濯物であふれ、食事も出前ばかりで出費がかさんだ。3人の将来の学費用にと蓄えていた貯金数百万円を取り崩し、やがて底を突いた。 ▽256世帯もいた全国の要支援世帯 佐藤さんのような県外避難者は、岩手、宮城、福島の被災3県で最大7万2892人いた。現在は多くが故郷に戻ったり、避難先で定住したりして生活再建を果たしている。
中にはいまだに苦しみ続けている人もおり、支援する全国の32団体によると、今年3月の時点で、少なくとも256世帯は「単独での生活維持が難しく、継続的な支援が必要」。「再建格差」が浮き彫りになっている。 256世帯のうち、要支援の理由が判明しているのは127世帯。内訳は、経済的困窮が46世帯(36%)、精神面も含む健康不安が32世帯(25%)、その両方が49世帯(39%)だった。佐藤さんも、両方に懸念があると分類されている。 被災前の居住地は、判明している139世帯のうち107世帯は福島で、原発事故の影響が大きいとみられる。 ▽要支援世帯の「発掘」を続ける支援団体 経済的、精神的に追い込まれた佐藤さんには、幸いにも気付いてくれた人がいた。避難者支援団体「まるっと西日本」代表の古部真由美さん(50)だ。佐藤さんとは定期的に連絡を取っていた。 古部さんが当時の状況を振り返った。「本人は気付いていなかったが、ひとり親で、かつ生活の管理が苦手な彼女は、生活が悪化しやすい『災害弱者』の条件がそろった人だった。放置すれば状況が悪化するのは明らかだった」