自給率よりよっぽどヤバい「肥料不足」、埼玉県に聞いた「下水汚泥」の可能性
「下水汚泥」の肥料の課題
下水汚泥由来の肥料を広めていくとき最大のネックが、使用者が不安を感じやすいということだ。下水は工場排水も流入することがあり、昔は重金属の含有量が高かった。今は排水が分けられたり、工場側で浄化処理をしたりするので、その含有は下がっている。それでも、かつてのイメージに引きずられ、忌避感を示す人はいる。 「使う側からすると、やっぱり1番気になるのが有害成分でしょう。私たちは肥料の規格にしたがってしっかりと管理をして、基準に適合したもののみを出荷することに努めていきます。これから栽培試験もして、問題などがないか確認をした上で、製品として使っていただけるように取り組んでいきたい」(水橋氏) 肥料メーカーと組んで、窒素やカリなどほかの養分を補った肥料を開発中で、来年の商品化を目指す。できた肥料が県内で使われることを想定している。 「下水から生まれた資源が、県内の農家のもとに肥料としてまた戻ってきて、作物になる。それを県民が食べて、また下水に戻ってくるっていう形になると、くるっと1周できるので、そういう資源循環も目指していきたい」(井村氏) 最後に下水道絡みの豆知識を1つ。埼玉県の副知事には、下水道事業を統括する県下水道事業管理者が立て続けに就任している。砂川 裕紀・前副知事と、その後任の山﨑 達也副知事がそうだ。なぜなのか。 理由として、さまざまな部署から横断的に人が集まることが考えられるという。たとえば、井村氏は分析や研究を担う化学職で、環境部の在籍期間が長い。水橋氏は国交省から出向している。もちろん事務職もいるし、技術職にしても、土木や設備などさまざまある。 「色々な職種の人が集まって、成り立っている。そういう意味でも、一番上位にいるマネージャーである下水道事業管理者は、しっかりした人の方がマネジメントしやすいというのがあるかもしれません」 水橋氏のこの言葉に、井村氏も「県庁内でも、ここまで色々な職種が満遍なくいる部署って、そんなにないかもしれない」とうなずく。県民の快適な生活を見えないところで支える下水道事業は、県庁の屋台骨を支える重要人物を輩出する部署でもあった。
執筆:ジャーナリスト 山口 亮子