『クロウ/飛翔伝説』若き才能と悲劇が創った伝説のアメコミ映画
悲劇を乗りこえて
ブランドンの死によって、撮影は全て止まった。一時はこのままお蔵入りにする話も出たが、しかし撮影は再開される。決め手になったのはブランドンの当時の恋人だった。彼女にブランドンのためにも映画を完成させてほしいと言われ、プロヤス監督も腹をくくったという。そして未撮影の部分は代役を立て、主演不在のまま何とかして撮影を最後まで終えたのだった。 こうして完成した『クロウ/飛翔伝説』は鳴り物入りで公開された。映画は公開週に全米1位を獲得。圧倒的なビジュアルとブランドンの熱演も高く評価された。話題になったのは映画だけではない。サウンドトラックも全米ビルボードチャートで1位となり、最終的に400万枚近い売り上げを記録。エンディングを飾ったStone Temple Pilotsの「Big Empty」もスマッシュヒットした。このサントラは、今なおロック界隈では名盤として愛され、メタル系の雑誌REVOLVERの「最高の映画サントラ盤ランキング」のファン投票で1位になっている。この企画でREVOLVER編集部は、このアルバムを一言でこう表している。「90年代のアンダーグランドミュージックの完璧な入門書」。この表現は『クロウ』の映画全体にも通じる。「ゴス」的なビジュアルに、「ロック」が鳴り響く中での、「香港映画の影響」を受けたアクションなどは、この後に吸血鬼ハンター映画の傑作『ブレイド』(98)や、アクション映画の歴史を変えた『マトリックス』(99)にも繋がり、全世界を席巻することになる。そして、今なおクロウは愛され続けているのだ。 『クロウ』の魅力は、再現性のなさにある。主演俳優の死という悲劇に、二度と揃わないであろう若き天才たちのコラボレーション。そして、それまでになかった新しい「カッコよさ」を作り上げたこと。すべてがもう二度と再現できない。もちろん今日の目で見れば、合成などで拙い部分もあるし、予算の限界を感じさせる場面も多い。しかし、この映画に込められた「新しいものを作ろう」という気概と、ブランドン・リーの死という巨大すぎる悲劇、そして「愛の力は『死』の哀しみすら乗り越える」という普遍的なメッセージが込められた物語は、今もなお世界中で多くの人々を熱狂させている。90年代を代表するカルト映画『クロウ/飛翔伝説』、その魅力はこれからも永遠に色あせないはずだ。 ■参考文献 ・クロウ - 飛翔伝説 - コレクターズ・ボックス (完全限定生産) [DVD] ・クロウ/飛翔伝説 [4Kリマスター・スペシャル・エディション] [Blu-ray] ・クロウ - 飛翔伝説/THE CROW 著:ジェームス・オバー 訳:鈴木博文 キネマ旬報社 ・キネマ旬報 1994年8月下旬号 ・REVOLVER FAN POLL: TOP 5 GREATEST MOVIE SOUNDTRACKS https://www.revolvermag.com/culture/fan-poll-top-5-greatest-movie-soundtracks 文:加藤よしき 本業のゲームのシナリオを中心に、映画から家の掃除まで、あれこれ書くライターです。リアルサウンド映画部やシネマトゥデイなどで執筆。時おり映画のパンフレットなどでも書きます。単著『読むと元気が出るスターの名言 ハリウッドスーパースター列伝 (星海社新書)』好評発売中。 X → https://x.com/DAITOTETSUGEN (c)Photofest / Getty Images
加藤よしき