浮かんでは消えてきた「サマータイム」構想 坂東太郎のよく分かる時事用語
議員立法での提出を模索
森元首相らの要請に対して、安倍首相は「党の方で先に議論を」とボールを自民党へ返しました。官邸を支える菅義偉官房長官も「国民の日常生活に影響が生じる」「期間はあと2年と限られている」と慎重な立場を記者会見で表明しています。 国民生活に直ちにかなりの影響を与える問題で、利点・欠点相半ばする課題なので、内閣提出立法(閣法)でなく、議員立法を事実上求めた格好です。05年と08年の際も議員立法での導入がはかられました。 首相からすれば、森氏は所属する細田派の元親分で首相の先輩でもあるから無下にはできず、かといって総裁選で3選を果たして秋の臨時国会にはいよいよ念願の憲法改正に取り組みたいところ、国民に評判が悪そうで、内閣として成立させるメリットにも乏しいサマータイム導入など本音ではやりたくないはず。なので、岸田文雄自民党政務調査会長に丸投げしたいとの思惑ではないでしょうか。 2019年導入というのも、かなりの無理筋です。同年は天皇退位・新天皇即位が決まっていて元号も変わります。終戦直後のように「時計を早めましょう」で済む時代ではなく、高度にコンピュータ化された現代ではシステムの大幅な変更が必要で、産業界からも応援の声は上がっていません。 2年間限定というのも、いかにも五輪のため取ってつけたような話だし、かといって2021年以降も存続させるとなれば、「何のためか」を根本的に議論し直さなければなりません。「G7(先進7か国)で導入していないのは日本だけ」という推進論も説得力を欠きます。「本家」の欧州連合(EU)すら今年2月、フィンランドが提案したサマータイム廃止を受け、欧州委員会が是非を検討し始めているからです。廃止理由は日本で指摘されているのと同じく、睡眠障害や健康問題などでした。 五輪固有の問題もあります。オリンピック憲章は大会を「開催する栄誉と責任は」IOCから「開催都市」に「委ねられ」ると明記。森氏が会長を務める組織委員会は、憲章に従えば日本オリンピック委員会(竹田恆和会長)と東京都に任じられた運営機関に過ぎません。なのに全権を委ねられたがごとく振る舞い、首相に要請するとは。確かに東京五輪は埼玉県や神奈川県など東京都以外でも実施されますが、しかしそれもごくわずか。まるで関係ない大多数の自治体から「東京のお祭りのために、何で私たちまで2時間も早起きさせられるのか」とブーイングされるのは当然でしょう。
--------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など