浮かんでは消えてきた「サマータイム」構想 坂東太郎のよく分かる時事用語
日本でも戦後に一時導入
サマータイムとは前述の通り、省エネや生産性向上を期待して標準時を早める制度です。ヨーロッパやアメリカ(州による)で行われているのが広く知られています。 ヨーロッパは緯度が高いので、夏の日照時間が長い傾向にあります。ベルリン、ロンドン、パリは札幌よりずっと北側に位置します。したがって、長い「昼」を有効活用しようと考えてもおかしくないでしょう。アメリカはサマータイムと呼ばず「daylight saving time」(日光節約時間)。いかにも合理主義的なお国柄らしい発想です。もともと日本とも相まみえた第二次世界大戦の戦時法から始まって今日に至ります。 戦後日本は、その米軍中心で構成された連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に占領されました。促されるかのように1948(昭和23)年、夏時刻法が制定されます。日本でただ1度、サマータイムが実施された瞬間でした。敗戦後の焼け野原で電力不足を和らげるのも大きな目的とみられています。 評判はたいそう悪かったようです。最大の要因は労働時間の増加。このデメリットは今にも通じます。働き始めは当然、時計を早めた1時間前。ところが終業時刻が今までの慣習通り同じようになってしまったケースが続出したのです。まだ日も高いし1時間ぐらい……という感覚がぬぐえなかったようで、不満が募りました。 さらに当時は、現在より圧倒的に農業就労者が多く、実態にそぐわなかったともいわれます。農家は太陽の動きが重要。南中(太陽が真南に来る)時刻が正午からあまりにもかけ離れると実態に即しません。サンフランシスコ講和条約が効力を持って独立を回復した52年4月28日をわずかに先立つ4月11日に廃止されました。 以後も2005年、08年に導入が検討されましたが、労働側の長時間労働促進への不安が反対の中心となります。この点はアメリカでさえ指摘されるほど。エディ・コクランが作り、後に多くのミュージシャンにカバーされた名曲「サマータイム・ブルース」の一節にも“You gotta work late”(お前は残業だ)とあるわけで。 近年は睡眠障害や重篤な健康被害を心配する声も強まっています。この手の話になると必ず引用される日本睡眠学会作成の「サマータイム―健康に与える影響―」に詳しく述べられていますので興味のある方はご覧ください。