完全に誤解していました…パラ金・小田凱人の「カッコ良すぎるオレ!」発言には狙いがあった
「応援ありがとうございます」は言いたくない
プレースタイルについても同じ。「前に出る」という、今までの車椅子テニスではありえない戦法が、目指した当初は物議を醸し、実際失点も多かった。だが決して妥協せず、自らが目指す「カッコいいテニス」を追求し続けた結果、キャリアゴールデンスラム達成まで、あと全米オープンを残すのみというところまで昇りつめた。 ここまで来たのは、自分をコントロールする能力が秀でているからだと自己分析。よく、メンタルが強いと言われるが、人と比べて特にメンタルが強いわけではない。それを操るのが上手いだけだという。焦ったり、自己嫌悪に陥ったり、マイナスに引っ張られがちな時でも、常にポジティブ思考に戻せることが、試合だけでなく、人生全てにいい影響を及ぼすのだそうだ。 「自分は今までどこにもいなかったキャラクター、だから受け入れる側には常に戸惑われる」という自覚もある。取材でよく「国枝さんについてどう思いますか?」と質問されるが、思ったまま「倒すべき相手です」と答えると「尊敬してます」「憧れです」というワードを期待している相手に戸惑われたと回想する。でもこれは、自分なりのリスペクトの表現。そして「相手の予想の枠に収まるのが嫌」という気概の表れでもある。 「応援ありがとうございます」的な、お決まりのフレーズは口にしたくない。自分らしさを出したくて、あえて派手で目立つことを口にしてしまうのだと。それが前述の「カッコ良すぎるオレ!」に繋がっているということなのだ。
批判も普通にされるようになりたい
小田凱人は、そして彼の脳内が綴られたこの本は、若さというものに対する「踏み絵」といえよう。 冒頭の私のように、彼を見て「もうちょっとこうすればいいのに……」と思った人は、若者から煙たがられる側の人間。 「うわ、かっけー」「自分もああなりたい、ああでいたい」と思うなら、実年齢とは関係なく、若者側の人間。 若者に煮え湯を飲まされている、若者が理解できない、若者と接する機会が少ない、若者がとにかく苦手という、全ての“非若者”にとって、この本は、最もわかりやすい今どきの彼らの取扱説明書となるのではないだろうか。 単なる幼稚や生意気ではなく、彼らには彼らの理があって、ああした言動になる。読み進めるうち、その理屈が紐解かれ、今までどうしてもわからなかった、彼らが言うところの「みんなちがって、みんないい」思考のブラックボックスを覗いた気分に。苦手だけれども、若者を理解促進し、会話しなければならない時、この本は必ず役に立つ……はず。 「障害者スポーツマンは、批判に晒されにくい」と、自らの境界を客観視する小田選手。もし自分が試合中激高してラケットを折る無礼を働いても、健常者テニス界の選手ほど非難されないだろうと述べていた。健常者・障害者分け隔てなく、同じ目を向けられてこそ、真の平等が訪れる、とも。だから自分はもっとどんどん強くなって、注目せずにいられない存在となり、批判も普通にされるようになりたいと。それこそが本当に社会に認められた勲章なのだと決意を記していた。