錦織圭、人工関節で「現役引退」の危機。復帰に隠された苦闘の日々
錦織圭、人工関節で「現役引退」の危機。復帰に隠された苦闘の日々
スポーツによって関節や靭帯、腱、骨などに繰り返し外力が加わることで引き起こされる障害をスポーツ障害と呼びます。錦織圭さんも左股関節唇損傷による手術を経験し、現在は現役復帰もしていますが、股関節を人工関節へと入れ替える可能性もあったようです。スポーツをするうえで、ケガやスポーツ障害を予防するために大切なことは何なのでしょうか。今回は、さまざまなケガを経験しながらも現役プロテニス選手で活躍されている錦織圭さんと整形外科医の大関信武先生をお招きし、ケガやスポーツ障害の治療、予防法について対談していただきます。 【動画】錦織圭ケガで引退の危機。苦悩明かす
完全復帰までの1年間。「股関節唇損傷」で走れず苦悩したリハビリの現実
大関先生: 錦織さんはテニスですばらしい成績を残し、その中でいろいろとケガも経験されていると思います。最近では左の股関節を痛めたことがあったと思うのですが、最初にどのような痛みが出たのか教えていただけますか? 錦織さん: 最初に感じたのは鋭い痛みではなく、プレーしていると徐々に蓄積されていくような痛みだったと思います。そのため手術を決断するまでにも半年くらいかかり、100%の力が発揮できない状態も続きました。 大関先生: 一回の練習や試合で痛めたということではなく、徐々に蓄積されてきたということですね。 錦織さん: そうですね。徐々に股関節の関節唇という場所がダメージを受けていたようです。私は下半身に痛みが出やすいのですが、股関節に痛みが出やすい理由はあると思いますか? 大関先生: そうですね。テニスは急激に動いたりストップしたりする動作の繰り返しであり、股関節に負担がかかるのだと思われます。特に錦織さんは身長が190cm以上の海外選手と異なり、非常に運動量の多いプレースタイルです。そういった動作の積み重ねが一つの理由になると思います。 錦織さん: その影響はあるかもしれませんね。 大関先生: 最初に痛みを感じた後はどうされたのでしょうか? 錦織さん: 2022年に初めて痛みを感じて、手術を決断したのはその半年から1年後だったと思います。 大関先生: 手術に至るまでの間に治療やリハビリもしましたか? 錦織さん: リハビリのほかに痛みを緩和する注射も試しました。今までの手術経験から、手術後は復帰に最低でも半年かかってしまうことも分かっていたので、なるべく手術にならない方法を試してみたのですが結局ダメでしたね。 大関先生: 股関節の痛みはどういった場面で生じていましたか? 錦織さん: テニスの場合は前後左右の動きがあるので、股関節をひねるような動きで痛みが生じていました。 大関先生: 実際に行った手術の内容を教えていただけますか? 錦織さん: 原因は関節唇という股関節における屋根部分の軟骨損傷だったので、関節の動きを良くするために内視鏡で関節唇を少し削り、補強する手術をしました。 大関先生: 術後のリハビリは大変だったと思うのですが、コートに戻るまでにはどれくらい時間がかかりましたか? 錦織さん: 復帰したのは術後8ヵ月くらいでしたが、ちゃんと動けるようになるまでに10ヵ月くらいかかったと思います。完全に痛みがなくなるまでには1年以上かかりました。 大関先生: 最初はどのようなリハビリから始めましたか? 錦織さん: 術後1~2ヵ月はベッドで寝ながらできるリハビリから始めました。股関節のリハビリだけでは再発する可能性も高いので、体を使った運動ができるようになってからは、全身を使って股関節の負担を減らす目的の練習を重点的にやっていたと思います。 大関先生: 股関節の手術を受けるのは初めてだったと思うのですが、どう感じましたか? 錦織さん: 一番大変だったのは足を地につけて動く練習ができなかったことです。当時は走れないことでストレス発散にも困りましたね。 大関先生: どのように対処したのですか? 錦織さん: 椅子に座りながらラケットを振る練習など、できることをやっていたと思います。 大関先生: 股関節唇損傷という診断を受けて、提案された治療の選択肢に人工股関節置換術もあったとお伺いしました。 錦織さん: そうですね。主治医の先生からは、もう少しプレーを続けていたら人工股関節の可能性もあったと言われました。 大関先生: 手術の後にそういった説明があったということですね。 錦織さん: はい。人工股関節の手術とはどういった手術なのでしょうか? 大関先生: 人工股関節置換術は壊れてしまった股関節を人工の関節に置き換える手術です。関節を構成する骨盤と大腿骨の骨を削りインプラントを入れることで、関節のスムーズな動きを得られる効果があります。 錦織さん: 人工股関節置換術の後にテニスを続けることは可能なのでしょうか? 大関先生: 人工股関節置換術により股関節の痛みは減りますが、トップアスリートとしてテニスを続けるのはなかなか難しいと思います。実際そのような選手はいますが、激しいスポーツを続けることでインプラントが摩耗したり緩んだりして、もう一度手術しなければならない可能性もあります。 錦織さん: なるほど。 大関先生: 股関節唇損傷の手術後に現役復帰するまではどのような気持ちで過ごされましたか? 錦織さん: 復帰するまではしっかりリハビリするだけなので気持ち的にはポジティブな気持ちではありました。 大関先生: 復帰してからはいかがでしたか? 錦織さん: 復帰してからの半年間は、動くと痛みがあったのでそれを我慢してプレーするべきか、それとも休むべきか選択する難しさがあり大変でした。 大関先生: 焦りや不安の気持ちもありますよね。 錦織さん: そうですね。どうしてもプレーしたい気持ちはあるものの、実際に無理をしたことで1ヵ月休むこともあったので、気持ちとの戦いもありましたね。 大関先生: 現役復帰に向けて、痛みだけでなく気持ちとの戦いもあったのですね。