リベラリズムはプーチンに勝てるか?ーーアメリカ右派とプーチンの「価値の共有」
異性愛や家族といった伝統的価値を標榜し、性的マイノリティをあからさまに迫害するプーチンのマッチョイズムは、アメリカ右派の間に着実に共感の輪を広げてきた[年次教書演説を行うプーチン大統領=2023年2月21日、モスクワ/ロシア大統領府ウェブサイト(http://en.kremlin.ru/)より]
2月21日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、 ウクライナに軍事侵攻 して以来初めてとなる年次教書演説を行った。年次教書演説は、大統領が内政や外交の基本方針を示すもので、侵攻後1年になる節目の演説の内容が注目されていた。予想された通り、演説は、「戦争を始めたのはウクライナと西側だ」「ウクライナが核兵器を手に入れようとした」など事実に基づかない侵攻の正当化で満ちており、また、アメリカとの間で残っている最後の核軍備管理条約である新START条約(新戦略兵器削減条約)への参加停止も宣言された。 しかし、それ以外にも、プーチンの主張が強く打ち出された箇所があった。演説が中盤にさしかかる頃、プーチンは、異性愛や家族といった伝統的な価値の維持・保存につとめるロシア社会と対置させる形で、欧米社会における伝統の破壊や道徳的退廃を糾弾した。 こうしたプーチンの発言は、21世紀に入ってから加速したLGBT迫害を背景としている。昨今のロシアでは、ソ連崩壊後に限定的ながら進められてきた同性愛者の権利保護が逆行し、同性愛者や性的マイノリティへの迫害が強まっている。ソ連時代の法体系では、同性愛行為は刑法上の犯罪とされ、医学的にも精神疾患と位置付けられていた。しかし、ソ連崩壊後、刑法典が改正され、同性愛行為の犯罪という位置付けも改められた。保健省の疾病リストからも同性愛関係の項目は削除された。トランスジェンダーの権利についても、1997年から身分証明書の法的性別を変更することが可能になり、2018年には、手術やホルモン補充療法をしなくとも、医学的証明書に基づいて法的性別を変更することが許可された。もっとも、同性愛者の権利を積極的に保護する法律が制定される事態には至らなかった。
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三牧聖子