『劇場版モノノ怪 唐傘』:人気テレビアニメが17年ぶりに映画で復活 監督が語るシリーズの現在地
大奥を通して「社会」を描く
新たな物語の舞台は“大奥”だ。世を統べる天子の世継ぎを産むべく、各地から女性たちが集められた男子禁制の場にして、政治との深いつながりを持つ官僚機構でもある。ここに新人女中のアサ(声・黒沢ともよ)とカメ(声・悠木碧)がやってきたことから、モノノ怪「唐傘」をめぐる悲劇が起こる。 中村監督が「新作を作る以上、絶対に妥協しないと決めていた」と語るように、脚本の開発には約2年が費やされた。あらかじめ大奥を舞台にすることは決まっており、数々のプロットを検討したものの、現代にふさわしいテーマがなかなか見つからなかったのだ。
そんな中、監督が強い関心を持ったのが“合成の誤謬(ごびゅう)”というテーマだった。経済学用語で、一個人や一企業に好ましい結果をもたらす行為が、より広い視点で見れば失敗につながることを指す言葉である。 「集団と個人が、どこかで必ずズレてしまう──これはおそらく、古代から現代、そして未来に至るまで、人間が感情を持って社会を形成するうちはずっと存在する問題です。集団とのズレから生まれる苦しみやつらさが“情念”になるのなら、これは現在ならではの、今の観客がリアリティを感じられる『モノノ怪』を作れると思いました。これまでは個人の情念を描いてきましたが、今回は集団の情念を扱う“社会の話”にしようと」
優れた頭脳でテキパキと仕事をこなし、大奥になじんでいくアサ。大奥に憧れながら、不器用ゆえに周囲の反感を買うカメ。まるで正反対の性質を持つ二人は、すぐに特別な絆で結ばれる。そんな中、最高職位“御年寄”の歌山(声・小山茉美)は、人々に「大奥に貢献せよ」と呼びかけながら、自身はある秘密を隠していた。やがて怪異が起こり、女中たちの情念がうごめき始める──。 「大奥の話にしようと決めていたのは、ビジュアル的な理由もありますし、『モノノ怪』との組み合わせでおもしろそうだと思ってもらえるフックを作りたかったからです」と監督は語る。「結果的に、“合成の誤謬”というテーマとの相性もすごく良かったですね」 ※編集部よりおわび:コメント欄に「アサとカメの説明が逆では?」とありましたが、ご指摘の通りに修正いたしました。読者と関係者のみなさまにおわびするとともに、コメントをくださった方に感謝申し上げます。