「ないなら自分たちでつくっちゃえ!」: 不登校30万人時代 当事者たちがつくる“学びの場”
後藤 絵里
学校に行けない、行かない「不登校」の小中学校生が急増している。文部科学省の調査では2022年度に過去最多の約29万9千人。NPOの実態調査では中学生のおよそ5人に1人が「不登校」や「不登校傾向」だという結果も出た。子どもたちは不登校を通じて何を訴えようとしているのか。親たち周りの大人に何ができるのか。子どもと向き合い、共に悩みながら解決策を模索する大人たちの取り組みを取材した。
「学校」という名のプロジェクト
毎週月曜日、東京都渋谷区のYCC代々木八幡コミュニティセンターの一室は “小さな学校” になる。 「メニューはおにぎりと豚汁に決まり。値段はいくらにしようか」 「何番テーブルまでつくる? イスは何個置く?」 「配膳、注文、会計のリーダーを決めよう」 30畳ほどの和室で座卓を囲み、大人と子ども7人が数週間後の子ども食堂の進行を話し合っていた。「こんな感じでどう?」。小学4年生のKくん(10)がiPadを使ってチャチャッとおにぎりと豚汁のイラストを描いた。子どもたちはみな、タブレットやパソコンを操作しながら話し合いに参加している。 わが子の不登校に悩む親たちが2023年2月に立ち上げた「みんなのプロジェクト学校(みんプロ)」のクラス風景だ。メンバーは小学3~5年の3人とその保護者、様々な縁でつながる支援者たち。毎月、何らかの「プロジェクト」を企画し、子どもたち自身の手でつくり上げていく。 昨年5月には地域のお祭りに「子ども屋台」を出店した。 「射的の的まで何メートルが適当?」 「1回いくらで何発撃てるようにする?」 子どもたちは実演しながら細かな段取りを考えた。夏休みは小中学生対象の動画コンテストに挑戦。1日に小説6冊、漫画8冊を読み、中島敦の『山月記』がお気に入りというフミちゃん(11)が台本を書き下ろした。 12月のクリスマスは子どもたちがサンタになり、区内の乳児院にプレゼントを届けた。みんプロが始まったばかりの頃、Kくんとフミちゃんとで施設を訪れて子どもたちが欲しいものを事前リサーチし、屋台の出店などでコツコツ費用を貯めて買ったものだ。 毎週、会議の後は遊びの時間だ。広い和室で探検ごっこをしたり、即興劇をしたり。様々な職業や経歴の大人がクラスに飛び入り参加することも多い。「ここでは学校でできないことができる。1つプロジェクトをしたら、もっとやりたくなる」とKくんは言う。 「みんプロ」誕生のきっかけは、2年生の頃に始まったKくんの不登校だった。「幼い時から繊細で、友だちが怒られているのを見て自分ごとに感じ傷つくような子だった」と母親の中原真理さん(39)は言う。読み書きの「書く」ことが苦手で、授業では答えが分かっても書けずに苦しんだ。2年生で男性教諭が担任になると、学校に行くのが怖くなってしまった。3年生の時は半年ほど通学できたが、4年生で再び難しくなった。「友だちも勉強も好きだけど、大勢の中で行動するのが難しい。学校という枠組みにどうしても合わなかった」。登校できる日は付き添いながら、真理さんは学校に代わる場を探し始めた。