「世界島を支配する者は世界を制する」地政学の祖に学ぶ、国際政治の「裏側」にあるロジックとビジネスの関係とは?
■ 「東欧」を支配する者は、ハートランドを制する ただし、ハートランドには悩みもある。港がないことだ。北極海側は氷で閉ざされている。ロシアの長年の念願は不凍港の獲得だった。日露戦争のきっかけとなったロシアの南下も、不凍港の確保が目的だった。 東欧はハートランドと海の両方に接する。東欧はシー・パワーが攻めてくる入口であり、ハートランドがシー・パワーを獲得し、海に出る出口でもある。だから「東欧を支配する者はハートランドを制する」のだ。 東欧にあるウクライナは、ロシアと国境を接し、黒海にも接する。ロシアがウクライナを制すれば、海の出入口を確保して、ハートランドをほぼ完全に制圧できる。西側諸国は、このウクライナ占領がかつての超大国・ソ連の再来につながる可能性を怖れている。 ハートランドを制圧後、ロシアが世界島を制し、世界を制する可能性もある。ウクライナは地政学的に世界の最重要地域の一つなのである。だから西側諸国はウクライナを全力で支援する。 このように地政学では、地理的な視点で歴史から学び、そこから国家間の競争パターンを読み解いて、国家間の競争で有利な立場を獲得することを狙うのである。以上がマッキンダー地政学の概略だ。 なお、「港がない」というハートランドの悩みは、地球温暖化により2040年頃には北極海を覆う氷がなくなることで、大きく変貌する可能性がある。 そもそも「ハートランドが世界島を支配できる」理由は、氷に覆われた北極海からシー・パワーが進入できないことだった。この条件がなくなり、さらにロシアが不凍港を求めて南下政策を取る必要もなくなる。その結果、ロシアが海洋国家に変貌する可能性も出てくる。地政学的に考えると、北極海は将来的に赤丸要チェックの地域である。 ■ 地政学と私たちのビジネス 繰り返しになるが、国際政治は、感情や情緒では動かない。あくまで、冷徹な利害関係で動く。そのベースが地政学なのだ。この地政学が分かると国際政治のロジックを読み解くことができ、ビジネスチャンスを獲得できる。 2016年に安倍晋三首相(当時)が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」という外交方針も、地政学的ビジョンだ。一帯一路戦略を進める中国へ対抗するため「自由、開放性、多様性、包摂性、法の支配の尊重」という理念に賛同する環太平洋地域の自由主義諸国が束になり、より大きな網を被せることを狙う戦略なのだ。 この国家戦略の地政学的な狙いを理解すれば、ビジネスで追い風に乗ることができる。例えば、若年層の人口と豊富な資源を持つアフリカは日本の重点投資地域だが、アフリカは法整備が遅れている。そこで日本政府の支援を得てここでスタートアップを起業し、日本では不可能な挑戦をする人もいる。 ビジネスパーソンも地政学的な視点を持てば、見えなかった大国の狙いが見えるようになり、ビジネスで先手を打てるようになるのである。
永井 孝尚