「世界島を支配する者は世界を制する」地政学の祖に学ぶ、国際政治の「裏側」にあるロジックとビジネスの関係とは?
■ 「支配すれば世界を制する」と言われる「世界島」とは? 本書では、次の有名な言葉が出てくる。 「東欧を支配する者はハートランドを制し、ハートランドを支配する者は世界島を制し、世界島を支配する者は世界を制する」 このハートランドや世界島の概念が、マッキンダー地政学のカギである。この概念を理解するために、地政学の基礎から分かりやすく説明していこう。 地政学では「シー・パワー」や「ランド・パワー」という言葉が出てくる。シー・パワーとは海洋を支配する能力だ。海洋国家の日本は、シー・パワー大国である。ランド・パワーとは陸地を利用する能力。ロシアや中国は大陸国家であり、ランド・パワー大国だ。 さらにマッキンダーは「世界島」という概念を提唱した。世界島とは陸続きであるヨーロッパ、アジア、アフリカの3大陸の総称で、現在世界人口の75%が世界島にいる。北米と南米はパナマ地域でわずかにつながっているだけで事実上は別々の島だ。 こうして地球を俯瞰すると、世界を支配しているのは世界島だ。世界にとっての脅威は、この世界島を単一勢力が支配することだ。
■ 「ハートランド」を支配する者は、世界島を制する マッキンダーはこう述べている。 「われわれは、いつの日か巨大な大陸が唯一の勢力の支配下におちいり、これが無敵のシー・パワーの基地となる可能性を度外視してもさしつかえないだろうか? (中略)これは戦略上の観点からみるとき、世界全体の自由にとって、まさに最大の、究極的な脅威だといわなければなるまい」 この世界島を支配するのが「ハートランド」である。下の図はマッキンダーの地政学で有名な図だ。 ハートランドは「PIVOT AREA(中心領域)」と書かれた部分だ。北極海沿岸から南にかけて、アジアの半分と欧州の4分の1を含む領域だ。北極海側は氷で閉ざされており海からの交通は不可能で、外部のシー・パワーの攻撃は困難だ。マッキンダーはこの地域を大陸の心臓地帯(ハートランド)と名づけた。 ハートランドは大草原だ。歴史上、ハートランドの遊牧民族たちは、周辺の国家を侵略し続けてきた。7~13 世紀、西アジア・北アフリカ・南ヨーロッパを支配したサラセン帝国は、北のハートランドの勢力により滅ぼされた。このハートランドは、梅棹忠夫が著書『文明の生態史観』(中公文庫)で「乾燥地帯」(別名「悪魔の巣」)と呼び、遊牧民が侵略を繰り返してきた地域だ。 マッキンダーはこう述べている。 「英国やフランス等の国民国家の成立、ベネチアの海上勢力の勃興、また中世における法王庁の権威の確立などは、みんな一つの事件に起因している。それはつまりハートランドから来襲した強敵にたいして、海岸の諸民族が一致して反撃をくわえた、ということである」 そしてロシアの台頭でハートランドの状況は一変する。マッキンダーは次のように述べている。 「遊牧民族や騎馬民族などが彼らの帝国を永く維持できなかったのは、要するに十分なマン・パワーに欠けていたためである。(中略)ロシアの時代になってはじめて、真に驚異的なマン・パワーの持ち主がハートランドの住人になったことを知ったようなわけだった」 ロシア革命でソビエト連邦が誕生して米国と並ぶ超大国になった。その後、ソ連崩壊でロシアの経済規模は大きく縮小した。しかし現在もロシアはハートランドを制し、核も所有する。だからロシアは世界の強国なのだ。