多様性のあるまちづくりとは 遠藤 新(工学院大学教授)
海外のユニークな実例
欧米でも空き地は問題になっていますが、正直なところ、これが正解という方法はありません。ポピュラーなのは、空き地を地域団体やNPOが緑化して地域に開放すること。でも、維持・管理の問題をクリアするのが難しい。 アメリカのデトロイトでは、空き地のままだと荒廃するという理由で、近隣住民が勝手に市民菜園を始めたり子どもの遊び場にしたりしているのを、後から行政が追認する方法を取った地域もありました。これは地域ぐるみで健全な環境を維持している一例ですが、法や文化の異なる日本では真似をするのが難しい。 空き地の将来を考えるためのヒントになるユニークな例としては、アメリカ・サンフランシスコのパークレットがあります。歩道に隣接した道路の、使われていない路上駐車スペースの一部を、主にその道路の前の店舗のオーナーがホストとなって、街の人々のための小さなパブリックスペースとして提供するものです。 駐車場1台分の土地に、あるホストは椅子を置いて休憩できる空間をつくり、あるホストは花を植え、と、それぞれ個性のある空間をつくる。ホストが思い思いに住民のためになると思う空間づくりに挑戦し、それが集まって「公共」ができる。この取り組みは、空きスペースから多様性のある都市空間づくりを考えるヒントになるのではないかと思います。
都市計画は小さく手探りで
冒頭の都市の再開発の話に戻ると、「ここを再開発すると、より安全で、機能的で、経済性が高く、合理性がある」と言われると反対しづらいものです。ただ、それだけを正解として計画すると、多様性からは遠のいていきます。 また都市空間は、一度大きくつくりあげると形を変えづらい。時代が変わり、前提としていた社会の条件が変わってしまうと、一斉に古びて魅力を失います。右肩上がりの日本経済と人口増を前提として、大量に団地がつくられたニュータウンがいい例です。 現代は時代の動くスピードが速く、5年後がどんな社会になっているか予測しづらい。こうすれば機能的だという姿も描きにくくなっています。 ですから今後、都市空間をつくる際には、この部分はこの時期につくる、この部分は別の時期に残しておく、と時間軸で細かく区切っていくという発想があってもいいと思います。いろいろな人や時代のニーズに合わせて、その都度、更新していくスタイルです。 そしてニーズのない、空き地のような場所は、個人が持ちきれないのであれば、最低限のコストで、環境にも負担をかけることなく次世代にうまく繋げる。あるいは行政や一つの団体に全部管理してもらうのではなく、住民と対話し、一緒にアイデアを出してもらったり、一部運用を負担してもらったりする。 そのように、大規模ではなく、小さく手探りでまちづくりをしていくことが、都市空間に多様性をもたらすのではないかと考えています。 構成:秋山圭子 遠藤 新(工学院大学教授) 〔えんどうあらた〕 1973年愛知県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学大学院工学系研究科博士課程中退。博士(工学)。専門は都市デザイン。金沢工業大学専任講師などを経て現職。主な共著に『アーバンデザイン講座』、単著に『米国の中心市街地再生』がある。