餌不足で「共食い形態」に激変、60年近く“死の淵”をさまよい続ける「不屈のサラマンダー」
「ちょうどいい」絶妙な生息環境が必要
10年以上生きるサンタクルーズユビナガサラマンダーは、湿地がなければ存在できない。まず、水がないと、卵が乾燥して死んでしまう。また、卵がかえってオタマジャクシのようになっても、「共食い形態」で餌不足をしのげるとはいえ、カイアシ類などの小さな水生動物を食べる必要がある。 「サラマンダーの幼生が完全に成長するまで(水源が)維持されなければ、1つの世代が丸ごと失われることになります」と淡水生態学者のエリック・パルコバクス氏は話す。氏は米カリフォルニア大学サンタクルーズ校でサンタクルーズユビナガサラマンダーの保護に取り組んでいる。 ただし、雨が多すぎるのも問題だ。 「池に一年中水があると、ウシガエルやカダヤシなどの外来種に侵入されやすくなります」とパルコバクス氏は説明する。これらの外来種はサラマンダーを好んで食べる。 「そのため、雨が多すぎず、乾燥しすぎないという、ちょうどいい環境が必要なのです」 しかし、そこで気候変動が問題になってくる。パルコバクス氏によれば、カリフォルニア州では、数年連続で干ばつに見舞われた後、雨の多い冬が数年続き、降水パターンが両極端になっているという。 困難はそれだけではない。成体には健全な高地のオーク林が必要になるが、オーク林はしばしば、農業や住宅開発のために伐採される。また、このような人間の活動はサラマンダーの生息地を分断し、成体同士が出会って繁殖する可能性を低くしている。
人間の介入
そうした危機をしぶとく乗り越えてきたとしても、人間の介入がない状態では、サンタクルーズユビナガサラマンダーは絶滅へ向かっていたのだとパルコバクス氏は話す。だからこそ2020年、人々は支援に乗り出した。 パルコバクス氏らは米魚類野生生物局と連携し、2020年から毎年、繁殖地の水たまりに戻ってくる成体を数匹ずつ捕獲している。 捕獲したサラマンダーはカリフォルニア大学サンタクルーズ校に持ち帰り、堆積物と野生の植物を入れた人工池で飼育している。 これにより、適切な水量、捕食者からの保護など、管理された条件下でサラマンダーの繁殖を助けられるだけでなく、接点がなくなってしまっている群れ同士を交配できるようになった。ここで生まれた個体を野生に再導入すれば、遺伝的多様性がいくらか高まるだろう。 これまでのところ、パルコバクス氏らは飼育下繁殖したサラマンダー約3500匹を生息地の水たまりに戻している。次の段階としては、遺伝学的な手法を用い、再導入されたサラマンダーがより強固な群れを形成しているかどうかを追跡する計画だ。 パルコバクス氏によれば、最終的な目標は、ほかの種を死の淵から救う枠組みをつくることだ。 「(サンタクルーズユビナガサラマンダーを)救うために何年も活動しているチームがあり、彼らは本当に深い関心を持っています。その事実が励みになり、私にとっての希望になっているのです」とサートレイ氏は話す。 サートレイ氏によれば、こうした努力は大局を見ることにもつながる。結局のところ、気候変動対策は、サートレイ氏がPhoto Arkで撮影してきた種の絶滅を食い止められるかもしれないのだ。サートレイ氏はパナマに生息していたアマガエルの仲間Ecnomiohyla rabborumや、米国コロンビア盆地のピグミーウサギの亜種など、撮影後にいくつかの種が消え去るのを見てきた。 「気候変動の影響は地球の隅々まで及んでおり、記録的な熱波が私たちに影響を与えるように、沿岸の小さなサラマンダーにも影響を与えています」とサートレイ氏は語る。「私たちは皆、つながっているのです」
文=Jason Bittel/訳=米井香織