熊本地震でけがした犬や猫を抱え、飼い主が次々来院…「ペット同伴の避難所として開放します」SNSで発信
熊本市の竜之介動物病院・院長の徳田竜之介さん(63)は2016年の熊本地震発生直後、ペットと飼い主を一緒に受け入れる避難所を院内に開設した。預かったいくつもの小さな命を救ってきた獣医師の信念は「動物の治療を通じて、飼い主の心もケアすること」。この思いを胸に今も第一線に立ち続ける。 【写真】開業30年を迎えた竜之介動物病院
16年4月14日夜と、16日未明、熊本地方で最大震度7を観測する地震が起き、突き上げるような揺れを感じた。病院が入る4階建てのビルは、耐震構造を備えていたが、一部が損傷被害を受けた。一方で、当時の診察は24時間体制。割れたガラスや倒れた家具でけがをした犬や猫を抱えた飼い主が次々に来院してきた。
11年の東日本大震災で被災地支援に入った際の光景を思い起こした。「あの時は人命優先で動物の命は後回しだった。今度は人も動物も一緒に助けないと」。病院をペット同伴の避難所として開放します――。前震から数時間後、SNSでこう発信した。
避難所は23日間開放した。最大で1日に200人以上が身を寄せ、経営する動物専門学校の教室も開けた。避難者も積極的に運営に協力し、「ペットを守りたいという共通の思いがあるから、みんなが自発的に動き、困難を乗り越えられた」。
鹿児島市で外科医の長男に生まれた。「父が人なら、自分は動物の命を助けよう」。小学生の時、獣医師を志した。麻布大に進学し、1994年に開業。当初は年中無休、24時間体制で診療を受け付けた。「人には当たり前のことがないのはおかしい」と思ったからだった。「いつでも行ける」と評判を呼んだ一方で、経営が軌道に乗るまでの約1年間は、新聞配達をして運転資金の足しにした。
動物のことを思うと、自然に活動の幅も広がっていった。15年からは殺処分される猫を減らそうと、野良猫の避妊・去勢手術をして元の生息域に戻す活動を本格的に開始。熊本市が創設した動物愛護管理功労者の第1号に選ばれた。04年には市内に動物専門学校を開校。理事長を務める傍ら、定期的に学生の前に立ち、若手の育成にも励む。