アルマーニの「後継者」候補が語るハリウッド、美しさ、ジェンダーの壁
アルマーニの世界観を語ることができる人物はふたりしかいない。ひとりは創業者であるジョルジオ・アルマーニ。もうひとりはロベルタ・アルマーニだ。彼女は、その父親でジョルジオの兄であるセルジオ・アルマーニが亡くなった1992年ごろに、メゾンのランウェイモデルとして同社の一員となり、世界的なファッションにおける“エンポリオ(大きな市場)”の創業者から信頼を得ている。 イタリアでは文化的に家族をとても大切にする。ジョルジオは兄の死をきっかけに、ロベルタを会社に招き入れ、豊かな経験を積ませたのだ。ちなみに、彼女は業界きっての名広報たりうる人材として、アルマーニにとって有利な能力を携えて入社した。ジョルジオは国際的な関心を集める世界をさらに広げるチャンスをロベルタに与え、ロベルタは言葉を操る才能を提供したというわけだ。 信頼のおけるスタッフに囲まれ、ジョルジオ・アルマーニとチームを組む彼女は、ありふれた一日など皆無であり、自分は強運に恵まれていると語る。 「叔父からは勤勉さこそが基本だという信念を受け継ぎました。アルマーニでは穏やかな一日など存在しません。私は世界を見て回り、各地で交流をもつことを楽しんでいます。そうすることで、途絶えることなくインスピレーションやエネルギーやアイデアが湧いてくるのです」 叔父が設立したメゾンでのロベルタの実績を私たちが称賛する理由は、広報担当者として20年以上にわたり大規模なイベントを通じてブランドの国際化を推し進め、評価されているからだ。例えば、アカデミー賞授賞式は彼女が好む活動の舞台であり、アルマーニが強い存在感を示す場だといえる。 アルマーニは、レッドカーペットでの装いとして、セレブリティの間で最も人気の高いブランドのひとつとなっている。それはなぜなのか。 「ひとえに叔父が情熱と献身をもって追求し、つくり上げてきた美学によると思います。叔父は一過性のトレンドを追わず、エレガントでタイムレスなスタイルを信条としてきました。流行よりもエレガントに見えることを大切にしているのです」 ロベルタは、自身のモデル経験からの視点と、ビジネスの観点からファッションを見続けてきているからこそ、こう断言する。 「服は、すでに彼女たちがもっている個性を引き立てるだけなのです。そして私はこれを、アルマーニを着ると常に自分自身に忠実であるように感じられるという意味にとらえたいと思っています」 その信念は揺るがない。1980年代を振り返ると、当時のハリウッドが型にはまった窮屈な場所からどう変化していったかがわかる。 「若い俳優たちは、古いレッドカーペットの芝居がかった雰囲気を拒否し、より自然で新しいスタイルを好むようになっていきました。ジョルジオは、その変化に大きくかかわっていました」 思い出されるのは映画『アニー・ホール』(1977年)の演技で78年のアカデミー賞主演女優賞に輝いたダイアン・キートンの授賞式での衣装だ。 「叔父は、ダイアンが劇中で演じたキャラクターや、そのマニッシュな外見に魅了されていました。授賞式でも同じような格好をするよう彼女に勧め、ジェンダーの壁を打ち破りました。彼はこれを、スクリーン上のキャラクターと現実の人物を結びつける巧みなやり方だと考えました」(ロベルタ) それまで、演じたキャラクターと自身との間にそうしたストーリーをつくり出した女優はいなかった。反応は好意的で、アルマーニはレッドカーペットで著名人のドレスアップを手がけた最初のブランドだとみなされるほど好評を博したという。