日韓高速船、技術・採算面で運航再開厳しく JR九州が撤退検討
JR九州の子会社「JR九州高速船」(福岡市)が福岡市と韓国・釜山を結ぶ高速船「クイーンビートル(QB)」(定員502人)の浸水を隠して運航していた問題で、JR九州が運航再開を断念し、日韓航路からの撤退を視野に検討していることが13日、関係者への取材で判明した。今後内部で協議し、最終判断する。 【写真で見る】撤退が検討されているJR九州高速船「クイーンビートル」 JR九州はこれまで、社員の安全教育や船体の安全対策などを踏まえ、8月から運休するQBの運航再開を目指す考えを示してきた。一方、QBでは、2023年の浸水発生時に必要な検査を受けず運航したとしてJR九州高速船が国土交通省から行政処分を受け、その後も船首付近の浸水が繰り返された。浸水隠しの問題を調査するためJR九州が設置した第三者委員会の報告書でも「船体補強への抜本的な取り組み」を求められていた。 このため、JR九州は船首部分の溶接方法の見直しなどを検討してきた。だが、技術的に難しく、多額の修理費用がかかることも判明。また、福岡と韓国・釜山を結ぶ格安な航空便などとの競争の中、運航再開後にどれだけの利用があるか採算面も考慮しているという。 古宮洋二社長は13日の取材に「現時点で会社としては何も決まっていない」と前置きしつつ「社員の安全意識、ハード対策、ガバナンス(組織統治)をしっかり作った上で運航再開がある。いろんな議論をした結果として運航再開ができないかもしれないが、現時点では運航再開を目指す中での選択肢の一つと考えている」と述べ、再開断念が検討材料にあることをにじませた。 JR九州は1991年に日韓航路を開設し、05年からは分社化したJR九州高速船が運航。20年に約55億円をかけてQBを建造し、22年に就航させた。しかし、24年8月の国交省の抜き打ち監査で、QBの浸水の未報告と、浸水を感知する警報センサーを上方にずらすなど安全運航に関するデータの改ざんが発覚。国交省は9月、同社に海上運送法に基づく安全確保命令に加え、全国初となる安全統括管理者などの解任命令を出した。 同社は10月、社員の安全教育やガバナンス体制の強化などの改善報告書を国交省に提出。また、第三者委の報告書を受けた11月には、JR九州が古宮社長と担当役員の役員報酬の自主返納と、浸水隠しに関わったJR九州高速船の前社長ら幹部3人の懲戒解雇処分を発表した。 浸水隠しを巡っては、福岡海上保安部は、船舶安全法違反(臨時検査不受検航行)容疑などでJR九州高速船とQB内を家宅捜索している。【下原知広、久野洋】