役所広司演じる平山がダイハツ「ハイゼットカーゴ」の2世代前モデルを選ぶ理由とは? 映画『PERFECT DAYS』の裏テーマは「カセットテープ」!?
東京という都市と公共トイレをめぐるロードムービー
この映画に登場するトイレはどれも個性的なデザインのものばかりなのですが、これらは「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトによって生み出された実在するトイレ。安藤忠雄や佐藤可士和、隈 研吾などなど16組のアーティストがデザインした新時代の公共トイレで、渋谷区内17カ所につくられました。「聖地巡礼」に行くのも面白そうですね(もちろんマナーを守って)。そうそう、劇中で平山が着ているツナギも、このTHE TOKYO TOILETプロジェクトでNIGOがデザインしたユニフォームなんだそうです。 東京スカイツリーの見える墨田区の古アパートでひとり暮らししている主人公の平山は、朝起きたら歯みがきをして小鉢の植物に水をあげてツナギに着替えて、アパートの前の自販機で缶コーヒーを買ってから、愛車のダイハツ「ハイゼットカーゴ」に乗って掃除に出かけます。ハイゼットカーゴで首都高を走り、渋谷の街並みや、下北沢までも足をのばしていて、ちょっとしたロードムービーの趣きを味わえるのも『PERFECT DAYS』の良いところのひとつです。 ちなみに劇中で、同僚の若者タカシ(柄本時生)とその彼女のアヤ(アオイヤマダ)がハイゼットカーゴの前席に乗って、後ろに平山が座ってドライブしながらワチャワチャするシーンがあります。その構図と空気感に、山田洋次監督『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)を思い出してしまいました。この日本のロードムービーの名作についてヴェンダースが言及したことはおそらくないと思うのですが、たぶん意識してるんじゃないかな~と、こけしは思います。
音楽とカセットテープが裏テーマ!?
『PERFECT DAYS』というタイトルがルー・リードの名曲「Perfect Day」に由来しているとおり、音楽もまたこの映画の重要な要素となっています。こけしは昔、仙台・文化横丁のバーでルー・リードを聞きながら吞んだくれていたこともあるので感無量です。 しかも主人公はカセットテープ派というのもポイント。近年は日本でもカセットテープというメディアが再び注目されて専門店も出現したりしていますが、平山の部屋の片隅のラックには、たぶん若い頃からストックしていると思われる大量のカセットテープが並びます。CD、MD、MP3といった平成以降のメディアに手を出さないで昔から好きな音楽を物持ちよく聞き続けているというのも、平山のキャラクターのひとつですね。 また、寝る前に読んでいる文庫本はウィリアム・フォークナー『野生の棕櫚(しゅろ)』、幸田文『木』、パトリシア・ハイスミス『11の物語』といったラインナップ。石川さゆり演じるスナックのママから「平山さんはインテリね」と言われているように、じつはけっこう筋金入りだったりします。 劇中のサウンドトラックとして、ルー・リードや彼がいたバンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどの名曲が流れ、洋楽の懐メロをバックに現代の東京が映し出されるのは、ヴェンダース監督の趣味の領域かもしれません。でも途中から登場する平山の姪(中野有紗)の名前が「ニコ」だったりするのは、やっぱり洋楽ファンとしては喜んでしまいますね(アンディ・ウォーホルのバナナで有名なヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビューアルバムは『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』)。