<球児のために>指導者の古い意識、燃え尽きる球児…レイズ筒香が説く“子ども第一”の野球とは 第92回選抜高校野球
横浜DeNAベイスターズで活躍し、今年、米大リーグに挑戦する筒香嘉智選手(28)はここ数年、野球界の改革に向け積極的に発言してきた。センバツ開幕を前に毎日新聞の単独インタビューに応じ、少年野球や高校野球について「子どもたちのことを第一に考えて、今の時代に合うように、指導者が考え方を変えるべきだ」と強く訴えた。【聞き手・福田隆】 【レイズ筒香が直言】高校野球「誰かが言わないと変わらない」 ◇選手は「子ども」。「指導」でなく「教育」を Q 甲子園について思うことは。 A 元々、高校生の部活であり、教育の場だ。そうであれば、変えなければいけない部分はいっぱいあるのではないか。もちろん、甲子園が悪い、と言っているわけではない。選手の負担が少なくなるように日程を考えるとか、改善できる部分はあると思う。ベイスターズでナイターの試合前に昼間に球場に入り、テレビで甲子園を見ていると、外国人選手が「この投手、何球投げているのか」「これでは将来がないじゃないか」と言ってびっくりしている。 Q 健康管理の課題は。 A すごく有望だった選手が、高校1年から投げさせられすぎて、肘を手術して全然投げられなくなった、というような話をよく聞く。大学でも同じ。けがなく野球を続けることができるのが珍しいのが現実で、それがおかしい。 Q 心もだめになるのか。 A 甲子園が自分の人生の最高潮になってしまって、大学生になってもそれが抜けきらない選手の話を結構、耳にする。あれほどの興奮を覚える場は人生の中でなかなかないし、「俺は甲子園に出たから、これが正しいんや」と大学での野球を受け入れられず、やめていく話はよく聞く。これがプロ野球ならいいが、高校生の教育の場と考えると良くはないと思う。 Q 勝利にこだわりすぎるのが問題? A 試合ではもちろん、最大限勝ちを目指す。しかし、勝つ「だけ」のために無理をさせたり、子どもの成長を早めたりするのがだめだ、と。選手は「子ども」なのだから「指導」ではなく「教育」をしなければならない。「高校で燃え尽きたい選手はいっぱい練習させた方がいいんじゃないか」とよく言われるが、それは本質からずれている。それでは子どものためになっていない。 ◇「子どもたちと対等」で指導を Q どこに問題があるのか。 A 指導者の考え方がアップデートしていないからではないか。例えば、50歳の方が30年くらい前の指導法で教えている。自分が教えてもらったまま、教えている。30年前と今だと全く時代が違うと思うし、周りの環境も全く違う。自分が指導されたことがすべてだ、と思っているのが問題だ。 Q 最も大切なことは。 A 一番は、子どもたちの将来を考えてあげること。子どもたちが主役、ということが一番だ。関東で少年野球を何チームか見に行かせていただいたが、指導者が、子どもにすぐに言うことを聞いてほしいから怒っている、というように、僕の目には映ってしまうチームが多かった。指導者がやりやすい環境を作るのではなく、子どもたちの将来が一番である、ということを考えてほしい。 Q 改善のポイントは。 A 子どもたちは、練習をしていて違和感を覚えても、怒られるのが嫌で指導者に言えない。まずは、子どもたちと対等の関係で話してあげてほしい。日本の指導者は何か教えていないと指導している感覚にならない、という傾向があるが、見守ることも大事で、声をかけてあげるタイミングは、常に観察することでわかると思う。子どもたちのことを一番に考えているのであれば、必ずよく観察すると思うし、そういうふうに変わってほしい。 Q 記者会見やインタビューで、野球界のあり方について積極的に発言している。 A お茶当番や無理な土日の協力要請などにお母さんたちが困って、野球をやらせたいけどできない、家族の時間も取れない、という手紙をたくさんいただいた。やっぱりこう思っている人が本当に多いんだな、と。体の負担を考えると、練習を短く、集中して密度の濃い練習をすることが大事だと思うし、子どもたちの集中力はそんなに長く持たない。ただ練習をやっている、と指導者の自己満足になるのは良くない。 誰かが言わないと変わらないし、実際に僕が言わせていただいて、いろんな動きがあった。指導者自身が「変えないといけない」と思わないと、野球界は変わらない。僕がこうして言わせていただいているのは、一人の日本の野球人として、日本の野球界が良くなっていってほしい、という思いだけ。自分以外にも、他のプロ野球選手が手を挙げて、野球界のために動いてほしい、という思いもある。 Q 今年のセンバツでは球数制限が導入される。 A 球数制限をすることがゴールではない。「1週間500球以内」と決まったが、プロ野球は1週間で先発ピッチャーが投げるのが大体100球前後、多くても130球。中継ぎでも1週間で100球いったら結構投げている方だった。これからも、子どもたちの成長を考えて、真剣にルールを考えないといけない。 Q 高校野球ファンに一言。 A 仲間と助け合うとか、自分のことばかりではなくてみんなを思いやっている姿はとても大事な部分だと思うし、そうした部分はぜひ注目して見てほしい。ただ、一番はやっぱり、教育の場として見た時におかしいところはないか、見る側の人々にも気付いてほしいと思う。 ◇プロフィル 筒香嘉智(つつごう・よしとも) 1991年、和歌山県生まれ。横浜高で2008年の春と夏に甲子園出場。10年にドラフト1位で横浜(現DeNA)に入団。16年には44本塁打、110打点で2冠に輝いた。通算成績は968試合で打率2割8分5厘、205本塁打、613打点。今年から米大リーグのレイズでプレーする。 ◇「持続可能な高校野球」その課題は 第92回選抜高校野球大会が3月19日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開幕する。熱戦に期待が高まる一方、健康管理や指導方法など、野球界は多くの課題が指摘され、競技人口減少の一因となっている。持続可能な新時代の高校野球を作ろうと、課題に向き合う人々を追った。