「適切にもほどがある」若者が入社後に泣いたワケ ビジネスには「ビジネスの適切な価値観」がある
「昔はどんぐりの背比べだったが、最近の若者は違う。優秀な若者は、とことん優秀だ」 人事部長も、このように自慢げに私に言った。大学を卒業して入社したあとは、同期入社の社員をさしおいて、新しい事業の柱を起ち上げる精鋭部隊に配属された。社長直下の営業部だった。 しかし、残念なことに周囲が期待した通りにはならなかった。 入社して半年が経過したころから、その若者は会社に出社しなくなった。軽いうつ状態と診断され、2カ月ほど家で療養することになった。
「大丈夫。気にしないで。焦る必要はない」 と上司から声をかけられたものの、若者は涙を流して謝った。これには上司や周囲もショックだったようだ。 「そんなに厳しくしたつもりはない。何かあれば、自分で抱え込まないでと何度も言ったのに」 どこで彼はバランス感覚を失ってしまったのか。 この若者は本当に適切だった。まさに「適切にもほどがある」ぐらい、そつがない言動をした。しかし、適切だったのは「入社前までの世界」だけだったとも言えた。
人の顔色をうかがい、うまく立ち回ることができても、それだけで仕事がこなせるほど甘い世界ではない。特に任されたプロジェクトは、その色が強かった。新しい事業を起ち上げるには、まるく収める必要がないときもあるのだ。 覚悟をもって発言し、信念を貫くことも重要だ。若いからこそ、チャレンジングな感性も求められた。それがストレスだったのかもしれない。 ■「七転八倒の経験」が人を強くする 社会人になるまではバランスが取れていたからといって、社会に出てからも同じようにバランスよくやっていけるかというと、そうとも限らない。
いきなり一輪車に乗って、すぐにピタリとバランスが取れるようにできる人は稀だろう。しばらくは七転八倒するに違いないのだ。たとえできたとしても、その姿勢をずっと保つのは難しい。環境が変化することで、再び転ぶことはある。 『不適切にもほどがある!』の主人公も、多少のことがあっても心が折れたりはしない。さんざんバランスを崩して転んだせいで、転ぶことに慣れ、そのうちにストレス耐性がアップしたからではないか。