バッタを食べて戦う兵士たちは、なぜか明るく楽しげに歌う 戦略なし、将来像なし。民族間に横たわる不信感。「それでも今は戦うのみ」【ミャンマー報告】2回続きの(2)
チン州に接するインドとの国境地帯からは国軍が排除され、国境管理も警察業務も「チン民族戦線(CNF)」などが担っている。国境ゲートにたなびくのはミャンマー国旗ではなくCNFの旗だ。道路の補修や拡張など公共事業は、軍政が残した予算をCNFが管理して継続していた。 少数民族は教育も取り戻した。チン州シムゾールの小学校を訪ねると、笑顔の子供たちが歓迎してくれた。女性ばかり8人の教師が約160人の児童を教えている。国際NGOの支援と児童の父母から毎月集める協力金でなんとか運営しているが、新しい教科書は用意できず軍政のものを再利用。教師の月給は6500円ほどで、27歳の教師は「お米も満足に買えない」と笑った。 ザカイ司令官や若い兵士たちに住民が寄せる期待と信頼は厚い。2021年11月、村に駐留していた国軍兵士3人にレイプされた主婦マンサンさん(33)は、取材班の前でザカイ司令官につらい記憶を打ち明け「もう2度とあんな思いはしたくない。軍政を消してほしい」と訴えた。 ▽「民主的な連邦国家」を目指すが、大きな障壁は民族間の不信感
今の勢いが続き軍政をチン州から完全に追い出したとしよう。その後、少数民族はミャンマーをどうする考えなのか。理想はミャンマー全土の民族が一致団結し、最大民族ビルマ人主体の民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」や、同じくビルマ人主体の「国民防衛隊(PDF)」と共闘して軍政を倒し、それぞれの地域で高度の自治を実現しつつ民主的な連邦国家を樹立することだ。だがその夢を実現するための道筋は何も定まっていない。 最大の問題は、チン州を含め各地の少数民族が、人口の7割を占めるビルマ人に強い不信感を抱いていることだ。ビルマ人は常に国政を独占し、少数民族の土地や権利を奪い抑圧してきたという記憶が不信感の源だ。今回の軍政との戦いでも、実際に戦闘で成果を挙げているのは少数民族が中心。ビルマ人主体のNUGとPDFに対して「口を動かすばかりで行動しない」という批判が高まっている。ザカイ司令官の部隊はこの2年間、NUGからは何の支援も受け取っていない。