バッタを食べて戦う兵士たちは、なぜか明るく楽しげに歌う 戦略なし、将来像なし。民族間に横たわる不信感。「それでも今は戦うのみ」【ミャンマー報告】2回続きの(2)
事実上の内戦が本格化するミャンマーで、民主主義と自治権を求めて軍事政権と戦う少数民族武装組織の多くは貧しい。共同通信記者が3月に同行した北西部チン州の部隊では、バッタの炒め物や干し魚が夕食の主菜だった。少数民族は各地で軍政を追い詰め支配地域を拡大しているが、最大民族ビルマ人との共闘が進まず、民主派は一枚岩には程遠い。歴史的な民族間の不信感が克服できないのだ。軍政打倒に向けた統一戦略も国家の将来像も見当たらない。それでも若い兵士たちはなぜか明るく楽しげで「今の自分にできることをする」と口々に語った。(共同通信ミャンマー取材班) 自家製爆弾vs竹やり。牧師が率いる「手作りの内戦」に同行した 国際社会の支援はゼロ。「打倒軍政」を支えるのは市民の熱意【ミャンマー報告】2回続きの(1)
▽貧しい食事、清潔なトイレ、不思議な部隊 「こんなものしか用意できず申し訳ない」。取材班は3月中旬に約1週間、チン州の武装組織「チン防衛隊(CDF)」に同行し兵士らと寝食を共にした。食事は冷めた米飯と、菜の花やジャガイモなど野菜の煮物、干し魚や干し肉が中心。意外に油が少なく日本人にも食べやすい味付けで、量は豊富だが、戦闘任務に付く若者たちには気の毒なメニューだ。ときにはバッタの炒め物や犬肉が食卓に上った。 村の民家を数軒借り上げた「前線本部」で、板間に毛布を敷いて雑魚寝。まだ寒さが残る季節だったが、お湯は貴重品でシャワーはなく水浴びのみ。村の女性たちが交代で炊事や掃除をしている。宿舎のトイレが極めて清潔なのに驚いた。筆者はイラクやシリアなどでの紛争地取材の際、トイレの不潔さに苦しんだ。チン州の兵士は公共意識が高いのだろうか。 兵士たちは10代後半から20代半ばがほとんどで、とにかく若く明るい。非番の兵士が宿舎でギターを弾き歌う姿をあちこちで見かけた。安室奈美恵さんのミリオンセラー「CAN YOU CELEBRATE?」のビルマ語版は人気曲の一つ。古いロックもよく歌っていた。
初年兵のミンレイさん(19)は日本語で「コンニチハ」と筆者に話しかけてきた。小柄な体に担いだ銃が重そうだ。侍と日本文化に憧れ、チン州に隣接する北部ザガイン地域カレイで日本語学校に通っていた。昨年、カレイで国軍の攻撃が強まり家族は避難民キャンプに逃れた。ミンレイさんは「軍政の横暴はこれ以上許せない。自分が戦うしかない」とCDFに加入した。初の戦闘任務として近くカレイの最前線に投入されることが決まった。「どうか気をつけて」と言葉をかけると「ハイ、ワカリマシタ」と笑顔で答えた。同世代の3割が武装組織に加入したという。 部隊には10代後半の女性の姿も目立つ。原則的に戦闘任務には就かず後方で医療や調理を担う。「戦闘がしたかった。敵を撃てないなら辞める」と去る人も多い。 ▽若い兵士たち、明るさの源泉は 厳しい環境で多くの仲間が死傷している。自分も死ぬかもしれないのに、なぜ明るいのだろう。牧師が本業のザカイ司令官(34)は「チン州の人々がこれほどの自治と自由を手にしたのは初めてだから」だと語った。確かに、部隊を包んでいるのは高揚感だ。