チラリズムはすべてのオトコの必修科目!? そのヤリクチを伝授
チラリズムとは、チラ見えの一瞬の隙を与えることによって誘惑する技法のこと。服飾史家の中野香織さんにチラリズムの効果について語っていただきました。
Text by 中野香織(服飾史家・作家) チラリズム、それは色気と遊び心の奇襲作戦です
ネイビーのクラシックスーツをビシッとキメる。隙のない完璧なオヤジに見えますが、ふとした瞬間に袖元からポップなひまわりのカフリンクスがチラリズム。予想できないチラリズムほどインパクト大ですよ。 スーツ20万9000円/ポール・スチュアート、シャツ6万6000円/ターンブル&アッサー、カフリンクスはスタイリスト私物
チラリズム、つまり、チラ見えの一瞬の隙を与えることによって誘惑する技法のこと。女子の誘惑術にとどめておくのはもったいない。むしろ、全男性の必修科目です。 チラリズム功者として忘れがたい人の例を挙げましょう。香りの出版社という革新的なコンセプトを掲げる「フレデリック マル」を創業したフレデリック・マルです。 数年前の来日時にお目にかかる機会があったのですが、父のクローゼットから受け継いだというアンダーソン&シェパード製の渋いスーツをネイビーのタイで着こなす生粋のパリの紳士です。
「派手でない人のほうが、個性がある。リミットがない」と静かに語るマルのスーツの袖口から一瞬、覗いたのは、まさかの黄色いポップなカフリンクス! 不意打ちの動揺に襲われました。「これに気づいたのは私だけ」という錯覚がいっそう喜びを増し増ししてくれたのは言うまでもありません。 ある老舗バーのバーテンダーも「引き」の攻撃力に秀でる手練れです。開店10分くらい前に訪れてしまったことがあります。バーテンダーは急いで上着を着用しながらドアを開けてくれたのですが、上着で隠そうとしたものが一瞬、チラ見えてしまいました。サスペンダー(イギリス英語でブレイシーズ)が! アメリカかぶれの旧型エリートは派手なサスペンダー姿になって部下に指示を出したりしますが、元来の英国紳士のマナーとしては下着に近い扱いなので人さまには見せないもの。下着とわきまえるゆえに隠そうとする恥じらいまでもチラ見えし、トクした気分にさせていただいたのでした。