日本産牛肉の輸出拡大に壁 「人手が足りない」 処理施設の限界あらわに
国内向けより作業が煩雑
食肉処理の担い手が足りない――。国産牛肉の輸出が急拡大する一方で、施設の処理能力の限界を懸念する声が業者から聞こえる。食肉処理から輸出まで行う業者は「国内需要が落ち込む中、消費拡大へ輸出は増やしたいが、壁がある」と語る。 2023年の牛肉輸出実績は、5年前の2倍以上に伸び、8858トンとなった。特に21年は、前年比3000トン増と急伸した。農水省は「コロナ下でインターネット販売などが伸び、販路が拡大した。輸出施設の増加や現地でのPRなどの努力もかみ合い、順調に伸びている」(食肉鶏卵課)とみる。24年1~6月の実績も前年同期を約1割上回っている。 JA宮崎経済連のグループ会社で食肉の加工・販売などを手がけるミヤチクは23年度、20年度の1・7倍となる約800トンを輸出した。24年度は現時点で前年度を下回るが、牛肉全体の輸出拡大傾向を踏まえ「昨年度の時点で工場はフル稼働している。さらに大きく伸ばすのは難しいのでは」とみる。 最大の課題は、枝肉から商品にするためのカット処理を行う人手不足だ。 作業には経験が必要で、輸出先からの要望に応えるため、国内向けよりも処理に手間がかかる。また、工場で正しく包装されているかや重量が適正かなどを検査するため、終日作業を続けることも難しい。同社では1工場当たり30~40人がカット処理で働くが、重労働を避ける傾向などから、特に若手の育成が十分に進んでいないという。 輸出の増加に伴い、小さな箱に分割しての出荷を求められるなど、輸出先のニーズも細分化している。ただ、輸出の認可を受けている工場の一つは古く手狭で、改修コストも大きいため対応しきれていないのが現状だ。 同社は「輸出の急伸で課題が見えてきたところだが、なんとか対応していきたい」と話す。対応策として、作業効率が高いカット方法の導入や、同社が一部出資しイスラム圏などへの輸出拡大を目指すSEミート宮崎の工場の活用を進める。 (小林千哲)
日本農業新聞