フィアット「127」にアバルト版があった!? 日伊のオーソリティが仕上げた「レストモッド」は走りも音も超・刺激的です【旧車ソムリエ】
レストモッド旧車の魅力を鮮烈に体現
ステアリングコラムの右脇には、いかにもレストモッド的というべきか、現代車のような「START/OFF」ボタンが設けられており、まずはキーフォブをセンターコンソールの所定の位置に置き、ボタンを1回押すとイグニッションが通電。次に2回目を押すと燃料ポンプが作動。そして3回目を押すと、シングルとはいえ大径のウェーバー社製キャブレターで燃料を送り込んでいるとは思えないくらいに短いクランキングとともに「ボォンッ!」とエンジンが始動し、安定したアイドリングに入る。 もとよりアウトビアンキA112アバルト用の4気筒OHVエンジンは、サウンド&レスポンスともに極上でトルクの乗りも気持ちよく、まさしく「ドライビングプレジャー発生マシン」なのだが、さらなるファインチューンが施されたこの個体のエンジンは1枚上。電光石火のレスポンスと吹け上がりで、軽量ボディを胸のすくような勢いで加速させる。 でも、このエンジンで筆者をもっとも魅了した要素はサウンドである。低中速域ではウェーバーキャブの吸気音が目立つが、4000rpmを超えたあたりから、がぜん澄んだ咆哮へと変わり、まるで空冷時代の4気筒リッターバイクのような「クォーンッ!」というエキゾーストノートに全身が包まれる。これを快感という以外に、なんと表現できようか……! また185/45R15という、いかにも今どき風な超低扁平タイヤを履いているにもかかわらず、クルマが少しでも動いていればパワステつき? と思わせるほどに軽くてクイックなハンドリングも印象的。ヒラリヒラリとコーナーを駆けるナチュラルな俊敏性では、細身のタイヤを履いたアウトビアンキA112アバルトに若干ながら及ばない気もする一方で、この「グイッ」と向きを変える感じも、それはそれでまた魅力的。絶対的なグリップの強さも相まって、よりモダンにも感じられた。 旧き良きイタリアン「ボーイズレーサー」の魅力を、世代をまたいだテクノロジーとセンスで磨き上げたこのクルマは、小さくてプリミティブであるがゆえに「レストモッド」という新しいジャンルに属する旧車の魅力を、より鮮烈に体現していると実感したのである。
武田公実(TAKEDA Hiromi)
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