子供の「逆さまつげ」には弱視のリスクが…手術すべきタイミングは?
子供に多い目の病気に「逆さまつげ(睫毛内反症)」がある。本来、外側に向かって生えるはずのまつげが眼球に当たっている状態で、0歳児の約半数が該当するといわれている。通常であれば成長するにつれ自然に改善するが、場合によっては手術が必要になるケースもあるという。山形大学医学部付属病院眼科の林思音氏に聞いた。 弱視は8歳までに発見して治療しないと回復のチャンスを逃す ■症状がなければ経過観察 「まぶたの内側には眼瞼牽引筋腱膜という組織があり、そこから穿通枝と呼ばれる皮膚を引き寄せる線維組織が枝を伸ばしています。逆さまつげのお子さんは生まれつき穿通枝の力が弱く、まつげが内側に向くのではないかと指摘されています。とりわけ幼児期は顔に脂肪がつきやすく、頬の膨らみによって下まぶたが押し上げられやすい。逆さまつげの9割は下まぶたに生じるといった報告もあります」 まつげが眼球に触れて角膜の表面が刺激され続けると、かゆみや痛みのほかに、まぶしさ、ゴロゴロ感、涙、充血、朝方に目ヤニの量が増えるといった角膜上皮障害の症状が現れる。さらに表面の傷が深くなると、角膜が白く濁る「角膜混濁」を起こして、視力の低下を招くという。 なかでも注意したいのが「弱視」だ。 「慢性的にまつげが角膜に当たり続けると、角膜の表面にゆがみが生じて乱視を引き起こします。子供の視力は身長と同じく成長するにつれて伸びますが、乱視は視力の発達を妨げるので、メガネをかけても視力が1.0に満たない『弱視』になるリスクが高い。視力の発達は8~10歳までとされるため、それまでに矯正メガネを用いて弱視を克服する必要があるのです」 通常、逆さまつげ自体は顔の成長に伴い自然に改善し、10歳の時点での罹患率は2%まで低下する。健診で逆さまつげを指摘されても慌てて手術する必要はなく、症状がなければ経過観察で構わないという。 ■手術時間は15~30分 ただし、角膜が傷ついている場合には角膜保護剤である点眼薬が処方されるが、あくまでも対症療法だ。角膜上皮障害が改善されず、角膜に混濁が見られるケースに対しては手術が適応される。 「手術の方法は2通りあります。まつげの下に小さい穴を開けて皮膚側と白目側から糸を通し、たるんだまぶたを結膜側へ引き寄せる『通糸埋没法』と、まぶたの縁を切開し、まぶたの内側にある瞼板と呼ばれる組織に糸を通してまぶたの皮膚側を固定する『切開法』です。当院では、再発率の低さから切開法が選ばれるケースがほとんどです。4~5歳になると、赤ちゃんの柔らかいまつげからだんだん硬みを帯びたまつげへと変化するので、この時期が手術を考え始めるタイミングとも言えます」 手術時間は通糸埋没法で15分、切開法では20~30分と非常に短いが、小児の場合は全身麻酔で行われる。手術にあたり、山形大学医学部付属病院では4日間の入院が必要で、切開法の場合には、手術から1週間後に抜糸する必要がある。 また、術後はまつげの下にシワができたり、“あっかんべー”した状態が続くが、1カ月で徐々に改善するため、過度に心配する必要はないという。 「美容外科でも子供の逆さまつげの手術を行っているクリニックは多いのですが、眼科では安全性を考慮して、手術する際に視力や角膜といった機能面に影響がないか顕微鏡を用いて確認します。近年は『眼形成外科』と呼ばれる、機能面と審美面を両方兼ね備えた、まぶたを専門領域とする診療科も増えています。お子さんの逆さまつげで手術を検討しているのであれば、まずはお近くの眼科医に相談するのがおすすめです。さらなる治療が必要と判断された場合、小児の目の病気を専門に扱う小児眼科医を紹介してくださると思います」