なぜ琉球ゴールデンキングスがイタリアへ?…Bリーグ初の「欧州遠征」が示す“日本バスケの現在地”
地中海最大の島、シチリア島。イタリアの形を細長いブーツにたとえると、爪先の先端に位置する。日本から約1万キロも離れたこの島に、同じく南国の離島県である沖縄を本拠地とするBリーグの琉球ゴールデンキングスが降り立った。 琉球は9月7、8の両日(現地時間)、シチリア島西端の都市トラパニで開かれたプレシーズン国際トーナメントに参戦。主催クラブであるイタリアリーグ1部(セリエA)のトラパニ・シャークから招かれ、クラブとして初となる欧州遠征を行った。アジアNo.1の球団を目指し、「沖縄を世界へ」という理念を掲げる琉球にとって、歴史的な一歩になったことは間違いない。 今回の遠征が持つ意義は、琉球だけにとどまらない。Bリーグ全体を見ても、日本のチームが強豪国ひしめく欧州での国際試合に参加したのは初の事例となる。それも「招待」を受けて、である。日本のバスケットボールが欧州からどう見られ、今後にどんな波及効果が期待されるのか。現地レポートをまとめた。 取材・文=長嶺真輝
■なぜ「琉球」を招待したのか?
琉球ゴールデンキングスを追い掛け、沖縄在住の筆者が那覇空港を立ったのは5日午後6時過ぎ。関西国際空港、トルコのイスタンブール空港を経由し、シチリア島北部のパレルモ国際空港に到着したのは6日午前8時ごろだった。現地はマイナス7時間の時差があるため、乗り継ぎを含めて21時間。大会会場となるトラパニはそこから長距離バスで1時間半の場所にあるため、丸1日をかけて到着した。 地中海に面した港湾都市で北アフリカのチュニジアに近く、中世には貿易の中心地として栄えたトラパニ。製塩業のほか、マグロ漁なども盛んだという。街の中心にある旧市街にはヨーロッパらしい古代の石造建築が並び、海沿いには延々とビーチが続く。夏は高温で雨が少ない地中海性気候で過ごしやすく、観光客も多い。 ゆったりとした空気が流れるこの地方都市を本拠地とするのが、琉球が参加した国際トーナメントを主催したトラパニ・シャークである。創設は1964年。市街地の端に位置するパラ・シャークアリーナをホームとする。 昨年、地元のサッカーチームも保有する実業家のヴァレリオ・アントニーニ氏がクラブを買収し、「トラパニの名を世界中に伝える」という理念の下で改革に着手。強化が実ってセリエB(2部)で優勝を果たし、セリエA昇格を決めた。新シーズンに向けた機運醸成やさらなる強化に向けて国際トーナメントを開き、琉球のほか、ユーロリーグで優勝経験もあるセルビアの名門パルチザン・ベオグラード、セリアAのデルトナ・バスケットを招いた。 強豪国の代表選手やNBA経験者が多く所属するパルチザンは、レアル・マドリード(スペイン)やパナシナイコス(ギリシャ)などでユーロリーグを計9回制した世界的な名将ジェリコ・オブラドヴィッチが率いており、大会に箔を付ける意味で打って付けのチームだ。 他方、欧州から見れば極東に位置する日本のチームである琉球を選んだ理由は何だったのか。大会前、アントニーニ氏は地元メディアのインタビューの中で「日本チームとの親善試合はどのようにして生まれたのか」との質問に対し、以下のようなコメントを発している。 「私はトラパニブランドを世界中に持っていくチームを望んでいました。多くのフォロワー(SNSのことだと推察される)を持つチームと試合をすることで日本全国にトラパニの名を届けることができ、アジア市場で共鳴を与えることができる。世界におけるこの街のイメージを少しでも変える。そのために日本の重要なチームをゲストとして迎えることは不可欠です」 筆者は現地に4日間滞在したが、最も観光客が多い市街地でもアジア系とおぼしき人を見掛けた回数は片手でも余るほどだった。物理的な距離の遠さや地方都市ということもあり、アジアにおける認知度が高いとは言えないはず。 琉球はBリーグでトップクラスの人気と実力を誇り、東アジアスーパーリーグ(EASL)にも3シーズン連続で参戦中であり、スポーツを通じてトラパニという都市をアジアに広める上であつらえ向きな相手と判断したということだ。アントニーニ氏は大会終了後も「イタリアのバスケットボールとトラパニに対し、アジア市場の扉を開いてくれた琉球に感謝を伝えたい」との声明を発表している。 世界的にバスケの後進国と見なされていた以前の日本であれば、招待する選択肢に入ること自体、なかったかもしれない。それだけ、今季で開幕から9シーズン目を迎えるBリーグの存在感が欧州においても高まってきている証左の一つと言える。 遠征前、NBAネッツに勤めた経歴もある琉球の安永淳一GMも筆者のインタビューに対して「10年ほど前であれば、世界的に見てヨーロッパの次にくるリーグは中国のCBAでした。しかし、今ではヨーロッパやオーストラリアの力のある選手、世界各地で活躍するアメリカ人選手らがどんどんBリーグに入ってきています。BリーグはNBAに次ぐ世界No.2のリーグを目指していますが、ヨーロッパでも日本のリーグが次の時代をリードする存在と認識されてきているのだと思います」と語っていた。 今月10日に発表されたBリーグの2023年度決算は経常収益が過去最高の79億6400万円に上り、4億4500万円の黒字を出した。成長著しいリーグに対し、アジアでのマーケットを開拓したい海外クラブがアプローチをするのは自然な流れと言える。