【石橋静河さん×稲垣吾郎さん×内田有紀さん】女性の貧困や女性蔑視、生殖医療、地方社会の生きづらさ…他人事ではない問題を語り合う
愛する人の子どもを産みたいと願い苦しみ、葛藤する。人間として一番生々しい姿(内田)
それぞれが演じた役どころについて教えてください。 石橋「主人公のリキは29歳。地方から出て東京で派遣社員をしている、ごくごく普通の女の子です。日々ギリギリの生活の中で、経済的に苦しいながら生きています。この話を特別な人、特別な事柄に関わる人たちの話ではなく、隣にいる人、街ですれ違った人の出来事として演じられたらいいなと思いました」 稲垣「僕が演じた基(もとい)は、世界的なバレエダンサーで自分の遺伝子を受け継ぐ者をなんとしても生み出したい。本能、欲望でもあると思うのですが、それにこだわりを持っている人物です。その姿が滑稽に見えたりコミカルに見えたりもするのですが、このドラマには悪人は出てきません。普通ドラマって、“共感してください”という作品が多いと思うんですが、基に関して言えば、そうでもなくて。ただ、共感できないと思っていながらも自分にもどこかそういうところがあるのかもしれないと思います」 内田「稲垣さん演じる基の妻・悠子は、至って普通な、ナチュラルでフラットな人だと思います。愛する人の子どもを産みたいと願い苦しみ、葛藤する。夫である基は元トップダンサーで秀でているところがあるものの、ちょっと鈍感なところもあって。今、ちょうど夫婦で行き違いになっているシーンを毎日のように撮っています(笑)。お芝居だから伝えられることもあると思うので、それぞれの動きや気持ちを楽しんでもらえたらと思います」
原作と第1回を見ても、個々の“心の揺れ”が興味深い作品だと思いました。「次に何を言うんだろう」「どう行動を起こすのか」の予想がつかず、動きを見るのがとても面白く感じました。演じていて解釈が難しいと感じたところはありますか。 石橋「稲垣さんもおっしゃっていましたが、完全な“共感のドラマ”ではないと思っていて、演じる役でもその他のキャラクターでも、“え!?”と思うことがあるんです。演じるからこそ共感する、シンクロする部分もあるのですが、それだけを頼りにすると共感できない時に離れてしまう気がして、私はリキを“隣にいる人”としてとらえ、離れすぎないように接していました。“リキはこんなふうに考えるんだな”“こんな経緯があったからこうするのかな”と。少しだけ、距離を置くようにしました」 稲垣「見ている人が感情移入してくれることがとても嬉しいです。僕が演じた基で言えば、共感できない部分も多いのですが、基は自分の遺伝子を残したい・繋げたいと願う男性で、前提として妻を愛しています。途中から命に対する考えが変わってしまうのですが、その気持ちの変化を繊細に演じられたらと思っていました」 内田「原作者の桐野夏生さんが“悠子が一番分からなかった”とおっしゃっていました。まさにそれが良くて、女性としていろいろな考えや選択肢があっていいと思うし、実は悠子の言動が人間として一番生々しい気がします。演じるというよりも悠子にならないとできない、そんな覚悟をして向き合いましたが、近頃やっと彼女の選択や発言が体にフィットしてきました」 稲垣、石橋「おお~、すごい!」 内田「今撮影がどんどん進んで核心の部分になってきて、まさに昨日は修羅場を撮っていました。悠子は、人とぶつかりたいわけじゃなくて泣いてすがりたい人でもない。女々しくなくて、さっぱりしています。それを我慢しているから辛くなっている。ひたすら耐えています。悠子の気持ちに寄り添えるようになってからは、セリフに嘘がなくて“そう言うだろうな”“選ぶだろうな”って分かるんです。自分の中に真実として入ってくるから不思議です」 稲垣「すごいね。それって、普段はあまりないこと?」 内田「ないと思う。だからちょっと不思議な感じもしています」