大量閉店「イトーヨーカドー」、今後注力する食品メインの店舗も再出発からわずか4年で閉店に…。売り場から透ける「消費者の見えてなさ」
一見すると、意表を突く売り場構成だが、実はこれ、かなり合理的だと思う。というのも、この選択は、現在の西川口で足りないものを補う姿勢が見えるから。「かゆいところに手が届く」のだ。 チャイナタウン、といったが、西川口は中国系だけではない、さまざまな人種が交ざり「リトルアジア」ともいうべき街区となっている。特に川口においてフィリピン系の人々は、中国・韓国に続くオールドカマーと呼ばれ、昔からその地に根付いてきた。
一方、西川口周辺にはフィリピン食材店などがほぼないため、フィリピン食材を少し前面に押し出して売るドンキの選択は、競合の多い中国食材を売るより、よほど合理的なのである。 また、1階を日用消耗品にしたのも合理的だ。というのも、周りに日用品がしっかりと揃うところがあまりないから。何か困ったことがあればドンキに行けばいい、となるのだ。 まさに「かゆいところに手が届く」のが、ドンキ西川口店かもしれない。 ドンキの特徴は「権限委譲」にある。これは、売り場や売り方の裁量を現場に任せること。初期の頃から一貫してこのやり方を貫いている。この手法によって、西川口という特殊な街に合わせた商品ラインナップが登場してきたのだ。
かつて、私は『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(2022年、集英社)という本で、ドンキの店舗ごとの特徴について書いた。そこにも西川口店は登場している。ただ、このときの西川口店は、もっと中華食材の扱いが多かった記憶がある。つまり、ここ数年で、その売り方や商品を変えてきたのである。 先ほど、シンガポールのドンキの例を出したが、そこでも焼き芋が売れるとわかるや否や、すぐに他の売り場をなくして焼き芋コーナーを拡充させていた。とにかく、全社的な体制として、現地ニーズの把握と、それに基づく行動が速いのだ。この変わり身の早さがドンキの強みであり、翻って、まだ中華食材を愚直に出し続けるヨーカドーは、その現場力とスピード感が弱みになっているといえるだろう。