自分の手で“佐藤優樹”を作るまで。モーニング娘。卒業後「音楽を聴けなくなった」あのころを経て
運転免許取得の意外な理由
──得意なことを伸ばしていくのではなくて、苦手なことを克服しようって思われたのはどうしてですか? 佐藤 しゃべるのが苦手だから、優樹の話ってオチがないんですよ。私より年下でもしっかりしゃべれる人をテレビで観たりして「すごいなあ」って思いながら、自分がすごく恥ずかしくなって、リリースイベントも取材対応も全部やりたくないですっていうことをマネージャーさんに話していたら、プロデューサーさんに呼ばれまして。そのときに、陰と陽の話をされたんです。 ──陰と陽ですか。 佐藤 陰っていうのは、自分が逃げていること。私ならしゃべること、人前に出ること、そのころは歌からも逃げてました。陽っていうのは、自分が大好きなこと。その話をされたとき、私は“陽”ばっかり選んでたんです。そしたら、「陽ばっかり選んでいると陰が寄ってきちゃうよ。陰をやるから陽が寄ってくるんだよ」という話をされたとき、腑に落ちたんです。それで、逃げてることを全部やろうって、そのときに決めました。Instagramも始めて、リリースイベントも取材もたくさん受けました。 ──すごいですね……潔いというか。言われたときは、素直に納得がいったんですか? 佐藤 びっくりしました! 自分が逃げてたっていうことに指摘されて初めて気がついて。今25歳なんですけど、この年齢で本気で私のことを考えて怒ってくれる人ってもういないので、話が伝わってきたんです。プロデューサーさんとお話したあとすぐに、マネージャーさんに「2枚目出したいです」って連絡しました。もともとほんとは、2枚目も出したくなかったんです。 ──そうだったんですか。 佐藤 なんか……曲を出しても、聴いてもらえるのかなって思ってしまって。今は数字でわかりやすく結果が出るじゃないですか。グループのころとはやっぱり数字が全然違うし、結果を見たくないから現実から逃げてたんです。歌を出すだけじゃなくて、歌うことも、しゃべることも、お客さんの前に出ることも、全部嫌で。全部から逃げていました。 ──嫌だなと思うのは、怖さに近い感情なんですか。 佐藤 怖さもあると思うんですけど、それよりも現実を受け入れたくない気持ちが強かったと思います。MVの再生回数を見るのも苦しかったし、信じたくなかった。 ──それくらい、ソロアーティスト・佐藤優樹と向き合うのは苦しい時間だったんですね。 佐藤 でも、小さなころから父からも「逃げてちゃダメだ」ってことは、言われていたんです。すっかり忘れていたんですけど、プロデューサーの言葉で目覚めました。 ──でも、佐藤さんといえば歌、というイメージがあるので「歌うことからも逃げていた」というのは意外でした。 佐藤 モーニング娘。を卒業して、2年間くらいお休みをいただいたときも、音楽に対して拒絶反応というか……向き合いたくないみたいな気持ちがあって、音楽を聴けなくなってしまったんです。音楽から離れて、しゃべることを特訓しようと思って、旅行だったり町中で人に話しかけたり、あとは地方の常連さんしか来ないようなお店で、常連さんたちの会話に混ざっていました。 ──常連さんたちの会話に混ざって、しゃべる特訓をしていたんですか⁉ 佐藤 はい。福岡とか大阪とか、地方のお店にも行って、常連さんたちと会話をしてました。その、音楽は一旦置いておいて、常識を知りたかったんです。会社で働いている人ってどういう生活をしているのかな、上司の人とどんな会話をしているのかな、恋愛ってどういうふうにしているのかなって。私のまわりにいてくれている人たちは、私への理解度がすごいから、“優樹語”で話してくれちゃうんです。それって、私が楽してるんですよね。だから、仲のいい人たちとも一回距離をおいて、一般の人たちとおしゃべりしていました。 ──宇多田ヒカルさんも、一度無期限活動休止を発表された際に「しばらくの間は派手な『アーティスト活動』を止めて、『人間活動』に専念しようと思います」と宣言されましたよね。 佐藤 すごい、気持ちがわかります。前はもっと、私のことを理解してほしいみたいな感覚だったんですけど、いろんな人と話したことで、伝えたいって思うようになりました。視野も狭かったんですよね。だから、会社の人たちに「運転免許をとってこい」って言われたんです。 ──それには、どういう意図が? 佐藤 車を運転するときって、ウィンカーを出すじゃないですか。それは、車はしゃべることができないから、ドライバーは相手のことを思って行動しなきゃいけないからで。「私はこっち行きますよ」っていうのを、どんな行動をとったら周囲の人に伝わるのかって、相手を思う行動で視野が広がるから、免許を取ってこいって言われたんです。 ──とってもいい話ですね。佐藤さんのことをよく見てる。 佐藤 これまでの私なら、免許も「ヤダ」って言ってたと思います。でも、去年から逃げないように必死だったので。しっかり今の佐藤優樹が出せる数字を見て、今いるポジションと向き合おうって思いました。