自分の手で“佐藤優樹”を作るまで。モーニング娘。卒業後「音楽を聴けなくなった」あのころを経て
「サウダージ」を歌ったときの気持ち「佐藤優樹、戻ってこい!」
──MVの再生回数も見られましたか? 佐藤 見ました。了解ですって、とりあえず受け入れて、今後どうしようかなと考えています。 ──めちゃくちゃカッコいいですね。だから、佐藤さんの音楽表現が広がっているんだなと感じました。2023年のバースデーイベントで歌われた「サウダージ」(原曲歌手・ポルノグラフィティ)が話題になっていますが、あの表現は胸にぐっと迫るものがありました。 佐藤 あのときは、もう「逃げない」モードでした。 ──どんな気持ちを重ねて歌われていたんですか? 佐藤 歌詞が、そのときの私にぴったりだったんです。最初に「私は私と はぐれる訳にはいかないから いつかまた逢いましょう その日までサヨナラ恋心よ」っていうフレーズがあるじゃないですか。もしかしたら、恋愛を歌った曲かもしれないんですけど、私は自分に向けて歌ったんです。逃げたりだとか歌えなかったりだとか、自分が、自分から離れていく感覚があったので「佐藤優樹、戻ってこい!」って思いながら。 ──自分で自分を鼓舞するように。 佐藤 はい。自分に嘘をついていたし、かわいくもなかったし、そういう悲しい気持ちを涙が溶かしてくれるなら、「その滴も もう一度飲みほしてしまいたい」って思ってました。私が逃げ続けていたら、夢は流れていってしまうから、はぐれる訳にはいかない、っていう感覚がすごくわかるんです。モーニング娘。としてせっかくやってきたのに、こんなに逃げてて自分いいの? お前ふざけるなよって。自分にパンチを入れながら歌いました。 ──切なさや必死さ、みたいなものを感じたのは「佐藤優樹、戻ってこい!」って思いが根底にあったからかもしれないです。 佐藤 歌詞を読んだときに、自分から逃げようとしている自分がいることに気がついて、すごく悲しかったんです。2番の「影を背負わすのならば」っていうところが、私の中で一番響いてるんですけど、当時の私にとっての影は、モーニング娘。時代の佐藤優樹なんです。うまく言えないんですけど、影みたいになってて……あのころの自分をひっそり思い出させてほしいって気持ちでした。 もともと曲を知ったきっかけが、玉置浩二さんとポルノグラフィティの岡野昭仁さんが一緒に歌われてたのと、乃木坂46の中西アルノさんのステージで、どちらもすごく素敵だなって。それぞれ歌を自分のモノにされていて、優樹もそうなれるようにがんばりたいという思いで、カラオケでずっと練習してました。でも、イマイチ自分のモノにできなくて、ファンの方の前で歌って初めて掴めた気がします。 ──ファンに向けて歌うことで、佐藤さんの「サウダージ」が完成したんですか。 佐藤 しばらく曲を出していなくて、自分の状況をうまく伝えられてなかったんです。言葉にするのは苦手だし、この歌でなら状況を伝えられると思って。「いつかまた逢いましょう」というのは、いっぱい挑戦したあとの成長した自分に会いたい、みなさんにも会ってほしいっていう気持ちです。もう二度と、あの歌い方はできないと思います。 ──玉置浩二さんの名前が挙がりましたが、最近はどんなアーティストさんがお好きですか? 佐藤 玉置浩二さんは、自分のままに生きている感じがすごく好きです。音楽の話をしていると、すっごく楽しそうなんですよ。「田園」を聴いたとき歌詞に心を奪われて、そこから「サウダージ」を知りました。あと、Mrs. GREEN APPLEさんとaikoさんも好きです。みなさん、音楽の話をしているときの顔がすごく素敵。ずっと挑戦し続けていると音楽の幅も広がるし、人生を豊かにしていくんだって、みなさんを見ていて思います。 ──音楽大学にも通われていたことは、音楽の幅を広げることにつながりましたか? 佐藤 私は、曲は作れるんですけど歌詞が出てこないんです。あと編曲も苦手。でも、憧れのアーティストの方々が「暇さえあれば曲を書いている」と仰っているのを知って、「私逃げてるな」って思いました。音楽を学んだことでルールを知ってしまい、逆に曲を作れなくなったと勝手に思い込んでいたんですけど、先生も「やってみないと変わらないよ」と言ってくださって。「基本的に音楽は自由だから、どういう音楽を作りたいかは佐藤さん次第で、ルールは困った時だけ使えばいいものだ」みたいなことを。それが、佐藤優樹を作るのは他人じゃなくて自分だって考えにつながりました。 ──自分で“佐藤優樹”を作らなきゃいけないっていう思いが、大学で明確になったんですね。 佐藤 今は何が好きで、どういう曲を歌ってみたくて、どういう存在でありたいのか、どんな自分になりたいのか。音楽から逃げていたとき、優樹自身からも逃げていたんだと気がつきました。 卒業するときに、モーニング娘。の「笑顔の君は太陽さ」を歌ったんですね。コロナ禍で、悲しい状況に置かれている人もたくさんいて、私は「生きてるだけでみんな素晴らしいんだよ」っていうことをすごく伝えたかったんです。ファンの方がいてくれるから、私は笑顔なんだよって。だから、新しい挑戦に一歩踏み出して、またこの場所に戻ってこられるようにがんばりますっていう意味で歌ったんですけど、今になってよく思い出します。 ──新曲ではどんなメッセージを伝えたいですか? 佐藤 私が一歩踏み出そうとして踏み出せなかったとき、仮歌を聴いた段階で「やってみな」って勇気をもらえた曲だったんです。バックサウンドと歌詞から「私たちが自信あげるから」みたいな感覚を味わって。なにか、挑戦してみたいけど自分にはできないかもって思っている人に、自信や勇気を与えられる曲になってたらうれしいです。
羽佐田瑶子