芥川賞作家・金原ひとみさん「デビュー作受賞のおかげで、賞狙いの小説にならなくなった」|美ST
20歳にして芥川賞を受賞するというセンセーショナルなデビューを飾った作家・金原ひとみさん。今や日本の文学界を代表する存在となり、出産・子育てといった女性としての節目、東日本大震災やコロナ禍を経ながら、時代を鋭く切り取るような作品を発表し続けています。「恵まれたスタートだった」と語る芥川賞受賞から、未曾有の事態を書き留めるという使命感を伴っての執筆まで、20年を迎えた作家生活を振り返っていただきつつ、執筆にかける情熱を余すところなく語っていただきました。
■お話をうかがったのは…作家・金原ひとみさん(41歳) 《Profile》1983年8月東京都生まれ。デビュー作である『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞、第130回芥川賞を受賞。受賞作を掲載した文藝春秋は累計118万部を超え、現在も破られず歴代1位の発行部数を記録。2010年『TRIP TRAP』で織田作之助賞、2012年『マザーズ』でドゥマゴ文学賞、2020年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞、2021年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、2022年『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞を受賞するなど、数々の文学賞を受賞。各文学賞の選考委員も務める。他著書に『アッシュベイビー』『持たざる者』『腹を空かせた勇者ども』、エッセイに『パリの砂漠、東京の蜃気楼』などがある。最新作は『ナチュラルボーンチキン』(河出書房新社)。
芥川賞を受賞してのデビューのおかげで、小説を書く場を与えてもらえた
芥川賞から20年が経ちますが、『蛇にピアス』というデビュー作で芥川賞をいただいたことはありがたいことだったな、と思います。当時の自分に声をかけるなら「良かったね」でしょうか(笑)。 私は幼い頃から集団生活が大の苦手で協調性もありませんでした。学生時代は不登校でしたし、「私にはみんなにはできる当たり前のことできない」という自覚があり、会社員にはなれないな、という思いも。そんな中で小説を書くことに出会い、ずっと書き続けてこられて、最初の応募で小説家になれ、そのまま芥川賞を受賞したことは、ちょっと出来過ぎだなと思うほど幸運なことでした。 芥川賞を同時受賞となった綿矢さん(小説家・綿矢りささん)と10年くらい前に対談をした時にも話題に出たのですが、芥川賞のおかげでその後長いスパンで小説を書く場所を与えてもらった、というのが大きかったです。また、新人作家にとって芥川賞はとても大きな賞なので、意識しすぎてしまうと創作が難しくなってしまうことがあります。私の場合はそういったことを考える間もなくいただいたので、その後はただひたすら自分や社会と向き合って小説を書くことができました。もちろん、苦悩の中で育まれるものもあるでしょうから、一連の流れがスムーズだったことが一概に恵まれているとは思いませんが。