財政検証の結果発表:政府は年金保険料納付の5年間延長案を撤回
女性の社会進出を後押しするためにも抜本的な制度の見直しを
「106万円の壁」問題への対応として、政府は2023年10月から、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の手続きを開始した。この制度では、事業主が新たに労働者に社会保険の適用を行った場合、労働者1人あたり最大50万円が助成される。これにより、短時間労働者が「年収の壁」を意識せずに働くことができる環境づくりを支援する。 ただしこの助成制度は、「106万円の壁」問題の解消に向けた暫定的な対応、という位置づけである。 第3号被保険者制度の見直しは、厚生労働省が示した財政検証の5つの案(オプション試算)には含まれていないが、2025年の年金制度改革の選択肢とすべきだろう。そうした制度改正は、労働供給の拡大を通じた人手不足問題の緩和に役立つばかりでなく、女性の社会進出を促すことにもなる。 今回の財政検証での年金収支の見通しは、5年前よりもやや改善したとはいえ、高齢化が進む中では、年金受給の抑制が今後も続く、政府目標である「所得代替率」50%を維持することは難しくなるだろう。抜本的な年金制度の改革を先送りすることのないよう、政府の積極的な対応が、来年の年金改革に向けて求められる。 (参考資料) 「令和6(2024)年財政検証結果の概要」、2024年7月3日、第16回社会保障審議会年金部会 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英