財政検証の結果発表:政府は年金保険料納付の5年間延長案を撤回
年金改革に深刻な人手不足への対応という要素が加わる
今までの年金制度改革は、大幅に悪化した年金財政の改善を通じて、年金制度の安定性、信頼性を高めることに大きな狙いがあった。また、将来にかけての給付額削減に歯止めをかける狙いがあった。 しかし今回の改革では、深刻な人手不足への対応という全く別の要素が加わっており、その分、難易度は増していると言える。この点を踏まえた見直し案が、4.65歳以上の在職老齢年金の仕組みを撤廃した場合、である。「在職老齢年金制度」のもとでは、賃金と厚生年金の合計が月額50万円を超えると年金が減額となる。そのため、いわゆる「働き損」を避けるために就業時間を調整する高齢者が少なくない。これが高齢者の労働供給を阻み、人手不足を深刻にしている面がある。 今回の試算では、在職老齢年金を撤廃すると、働く年金受給者の給付が増加する一方、将来の受給世代の給付水準が低下し、報酬比例部分の所得代替率は2029年度に0.5%低下する。 このように「在職老齢年金制度」の見直しは、年金財政を悪化させる面があるが、現状のまま制度を変更しなければ、高齢者の労働供給が増えずに、それが成長率の押し下げにつながり、ひいては年金財政収支を悪化させかねない。こうした点から、「在職老齢年金制度」の見直しは必至だろう。
「第3号被保険者制度」が人手不足問題を深刻にしている
同様に、人手不足問題を深刻化させている年金制度が、「第3号被保険者制度」だ(コラム「年金制度の安定性・信頼性を高める改革への期待:「在職老齢年金制度」、「第3号被保険者制度」の見直しで人手不足緩和も」、2024年6月3日)。自ら公的年金保険料を支払うサラリーマンや公務員など第2号被保険者の配偶者で、社会保険上の扶養認定基準を満たしている人が、この第3号被保険者となる。保険料は配偶者の厚生年金から支払われるため、自己負担はない。健康保険料も無料である。主に想定されるのは、パートの主婦らである。 ところが、彼らは年収106万円を超えると扶養から外れて社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料)を新たに支払う必要が生じ、その分手取りの収入が減ってしまう。それを回避するために労働時間を調整することで、企業の労働力不足が深刻化している面がある。これが、「106万円の壁」問題である(コラム「『106万円の壁』問題解決に助成金制度を10月に導入へ:抜本的な対応は第3号被保険者制度の見直し」、2023年8月18日)。 現在の様に賃金が上昇すると、労働時間を削減する必要がさらに強まり、人手不足をより深刻にしてしまう。 この制度は専業主婦を前提とした、やや時代遅れの制度となっているのではないか。さらに同制度には、不公平感を生じさせている面もある。第3号被保険者が、社会保険料を支払わずに給付を受けているのは、独身者や共働き世帯がその分保険料を負担しているから、と考えることができるだろう。また、自営業の妻は第3号被保険者となれないことも、不公平感を生じさせている。