「インプラントを勧めない所が良い先生」という誤解 良医を選ぶには/歯学博士照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<26> 紀元前5世紀にエーゲ海で生まれたギリシャの医師ヒポクラテスは「医学の祖」と呼ばれています。臨床所見の蓄積から健康や疾病を自然なことととらえ、それまで行われてきた迷信などの呪術的医療から医学を解き放った人物で、今日の医学につながるさまざまな礎を残しました。 ヒポクラテスの功績は実際の診断や治療の手法にとどまらず、医師の職業倫理についても言及し、以後「ヒポクラテスの誓い」として世界中の医学教育で語り継がれています。そのなかにこんな一節があります。「養生治療を施すに当たっては、能力と判断の及ぶ限り患者の利益になることを考え、危害を加えたり不正を行う目的で治療することはいたしません。(1985年、大槻マミ太郎訳、ヒポクラテス全集より)」 すべての医療者が患者さんの症状に応じた的確な治療を施すのは当然ですし、科学的根拠に基づいた診断や計画はいわずもがなです。日々アップデートされる学術データをしっかり取り入れることも医師の務めであると思っています。こうした連載を長年行っていると、どの歯科医院にかかるべきかという問いかけは実に多く寄せられるメッセージの上位であり、特にインプラントなどの高額な治療費を覚悟しなければならない状況に陥った患者さんの悩みは切実です。 インプラント治療の検討であるならば、歯をなくした原因をきちんとひもとき、喫煙などの生活習慣によるものか、過度な力がかかった結果か等を見極めなければ次に進めません。こうした経緯を分析し、患者さんとともに解決する姿勢をもった医院を選択すると良いでしょう。 「インプラントを勧めない所が良い先生」といった誤解を持たれている方もまだまだいるのですが、失った1本のために両隣の健康な歯を2本削ることがむしろ不利益になるかもしれないという側面も知っておいた方が良い事実です。