自動車のステアリング……そもそも何で「ハンドル」って言うようになったの?
■古い文献からハンドルを深読み
自動車部品としての「ハンドル」のルーツを探るにあたって、国立国会図書館にある蔵書のうち、古い文献を年代別に調べていくのが手っ取り早い(えらく根気がいるけど)と判断して、そうした。 自動車関連の本で、比較的古い時代の1926年に刊行された『最も容易に自動車運転手になる法』に目が止まり、開いてみるとハンドル関連の記載がちゃんとあった。 その本では、方向転換装置全体のことを「ステアリングギア」、おなじみの円いパーツを「ステアリングハンドル」と称していた。 さらに文献を漁っていくと、1933年刊行『現今の自動車構造学』では、方向転換装置全体を「ステアリングホイール」と表し、手で握る部分のみを「ステア(ヤ)リングハンドル」として紹介している。 一方で、同年刊行の『自動車工学』を開くと、「ステアリングホイール普通ハンドルと云い運転手はこれを握って換向する」という記述がある。 より英語に近いステアリングホイールが正確な表現で、ハンドルはあくまで俗語だったものの、昭和初期の段階で、ハンドルのほうが一般的な言い回しになっていたらしい。 戦後の1950年代に発行された自動車専門書になると、単なる「ハンドル」が俗語を脱却した用語として完全に定着しており、ステアリングホイールと呼ぶのは少数派といった記述が見られる。"主従関係"が逆転したのはこの頃だったようだ。
■もはや出どころ不明
自動車専門書に目を通した限り、専門用語としては、ステアリングホイールやステアリングハンドルが、だんだんと年月をかけて「ハンドル」に変わっていった印象を持った。 では、単なる「ハンドル」という表現が登場する最も初期の文献はいつ頃かと言えば、1908年発行のものが見つかった。さらに、1920年代中頃の時点で「ハンドルを取られる」の言い回しが既にあったらしい。 自動車の黎明期から呼称の「ハンドル」は存在していたと思われるが、自動車の舵取り装置のことを「ハンドル」と呼ぶようになった明確な経緯を記した文献は1冊も見つからなかった。 なにぶん歴史が古すぎるため、覚えている人も世界で恐らく0人になって久しく、今やまったく知る由もなかったのは、ちょっと残念。